「……」
「おい、蓮。黙ってないで何とか言えよ!」
怒りのあまり、俺は蓮の胸ぐらを掴んだ。
「ははっ、良い子か。確かに、そんなふうに思っていたときもあったけど……」
何がおかしいのか、蓮はひとしきり笑ったあと、今度は俺をきつく睨みつけた。
「あの子は……羽生菜乃花は、悪魔じゃないか」
「悪魔?」
ワケが分からず、俺は首をひねった。
「ああ、そうだよ。羽生さんは、葵兄ちゃんの命を奪った、悪魔なんだよっ!」
「菜乃花が兄貴の命を奪ったって、何だよそれ」
意味が分からない。
「彗の彼女がどんな子なのか気になって、僕の執事に羽生さんのことを調べさせたんだよ。そうしたら羽生さんが昔、川で溺れたって知って」
嫌な予感に、心臓がバクバクと音を立てはじめる。
「あの子が溺れた川は、葵兄ちゃんがよく絵を描きに行っていた川で。そこで溺れた羽生さんを、葵兄ちゃんが助けたって……。そのせいで、兄ちゃんは持病が悪化して死んだんだ!」
「っ……」
初めて知る事実に、俺は鈍器で殴られたような衝撃を覚え、声を失った。
そして、蓮の胸ぐらを掴んでいた手を力なく離し、ふらふらと後ずさる。



