「あーあ。せっかく菜乃花ちゃんと、久々の二人きりだったのに。邪魔が入っちゃったよ」
「邪魔って、お前なあ」
彗くんの眉間に、シワが寄る。
「菜乃花は、俺の彼女だぞ!?」
「はいはい。言われなくても分かってるよ。僕は、菜乃花ちゃんの仕事を手伝っていただけで。彗が心配するようなことは、何もないから」
蓮くんはやれやれといった様子で、彗くんに近づく。
「これは、彗に託すから。あとは二人で仲良くやってよ」
蓮くんは持っていた資料の本を彗くんに渡すと、踵を返して歩き始める。
「あっ、ありがとう、蓮くん……!」
後ろ姿にお礼を言うと、蓮くんは片手を上げてそのまま真っ直ぐ廊下を歩いていく。
もしかして、蓮くん……バッシュを忘れたっていうのは嘘だったのかな?
自分のクラスであるB組が近づいても蓮くんは足を止めることなく、ついには教室の前を素通りした。
ああ、やっぱりそうだ。
蓮くんはわざわざ私を手伝うために、忘れ物をしただなんて言ってくれたんだ。
「蓮くん、本当にありがとう!」
私は優しい彼の背中に向かって、もう一度大きな声でお礼を言った。



