「ありがとう、彗くん」
「お礼は良いから。保健室でちゃんと手当してもらおう」
「でも……」
「菜乃花は、大したことないって言うけど。俺のせいで菜乃花が怪我をしたんだ。だから、心配なんだよ」
真剣な表情の彗くん。
彼が本気で心配してくれているのが伝わってきて、私は何も言えなくなる。
「菜乃花がどうしても拒否するなら、この前の体育祭の練習のときみたいに、お姫様抱っこして連れてくけど?」
「えっ!?」
ハードルに足を引っ掛けて転んだ私を、彗くんがお姫様抱っこしてくれたときのことが頭を過ぎった。
あのときと違って、今の彗くんは学園ではアイドル的な存在だから。
今あれをされるのは、さすがにちょっと……。
「う、分かった。保健室、ちゃんと行くから」
「良かった。菜乃花はえらいね」
彗くんの手が、頭に優しく触れた。
「それじゃあ、行こっか」
彗くんは、当然のように私に手を差し出してくれる。
そっと取ったその手は、いつもと変わらず大きくてとても温かかった。



