「冗談だよ。気合入れて準備してくれたのは、見ればわかる。ありがとう、僕なんかのために」
「も、もう……」

 たちまち茹でダコのように真っ赤になるジェミー。こんなバカップルじみたやり取りに耐性のない彼女の手を、ルゼは下から優しく押し抱くように取った。

「ほら、機嫌直しなよ。これで足りないなら、ハグでもキスでもなんでもするけど?」
「くうっ! そっちがその気なら、これはどうよ!」

 そのリードが先を行かれたようで悔しくて、負けじとジェミーは大胆にも、彼の腕をぐっと抱え込んだ。するとさすがのルゼも平静ではいられない。

「っと! それはちょっとくっつき過ぎじゃないか!?」
「こ、これくらい普通でしょ? ダンスする時と変わらないもの」
「その割には顔が赤いけどね。ま、具合でも悪くなったら言ってくれ」
「その言葉そっくりお返しするわ。鏡でも見て見たら?」

 結局素直になれないふたりは湯気が出そうなくらいぽっかぽかの表情で、接近戦を繰り広げつつデートコースを歩き出し、街人たちの微笑ましい視線がそんなふたりの後を追った。