ウィンダスに背中を叩かれて力ない笑みを浮かべながら、やはりまだルゼの記憶は混乱したままだ。
 どうしてあの地下道の記憶が自分にはあったのか。そしてそこが、なぜ王宮と繋がっていたのか。
 それに、少しだけ取り戻しつつある、おそらく首の傷を受けた頃の過去の記憶。

(僕は、なにを忘れてしまったんだ?)

 しかし、それが収まる心の(はこ)を開くための肝心の鍵穴はまだ見つかっていない。そんなもどかしさが、彼の腕に力を込める。
 そこへ、医師の検診を受けていたガースルが、脱出の目的を思い出させた。

「そんなことより、ジェミーはどうしている! ペリエライツ家はどうなった!? クラフト殿下に乗っ取られたのか、どうなんだガーフィール!」
「ガースル殿、落ち着かれよ」
「これが落ち着いていられるか! あの子になにかあったら、私はっ!」
「あなた……」

 頭髪を掻き乱し、この世の終わりのような顔をして喚くガースルの言葉に、いつもなら気丈に宥めるコーネリアも顔色を失くしている。
 ルゼもその姿を見て、今は自分のことは忘れようと、状況の理解に努めた。