「このようなところに来るのは珍しいな。お前たち、下がってよいぞ」
「「ハハッ」」

 彼が鋭い眼光でさっと見回せば、直ちに騎士たちは恐れを抱いたようにビシッと背筋を伸ばし、王国式の敬礼を送って去ってゆく――。

 ジェミーがガレーヌ地方でチョコレート作りに邁進しようとしている頃、ミリィは王宮の騎士団隊舎を訪れ、団長である父に面会を申し込んでいた。
 案内してきた騎士たちが扉を閉め、いそいそと戻ってゆくのを見届けるとガーフィールはゆっくりとミリィに近づいてゆく。
そして険しい顔のままミリィの前に相対し、ばっと両手を広げ――。

「元気そうでなによりではないか! 我が娘よッ!」

 愛情いっぱいのハグを施そうとした、のだが。

「お父様、それは屋敷でお待ちになっている母上にしてあげてくださいませ~。しばらく帰ってこられないと、ずいぶんお冠でございましたよ~」
「おおっと。たっはっは、そう言ってくれるな」