そして、ミリィたちのことも、そこの、とかお前とか言うことなく、ちゃんと名前で呼んでくれるようになった。
 ものを投げつけられることもなくなったし、用事のない時は休むように言いつけてくれる。その変わり様はミリィにも他の使用人にも、まこと突然中身が誰かと入れ替わってしまったように思えるほど。ここまでくると、嬉しさよりも気味の悪さがまさろうというもの。

 それでもミリィは、ペリエライツ家のお屋敷に入る時に、たいした特技もない自分を雇ってくれた奥様のためにも、解雇を言い渡されるまではこちらで勤めようと思っていたし、ずいぶんと気が楽になったものだ。

 なんせミリィがあの御嬢様に仕え始めたのは、前任者がその暴虐ぶりに(さじ)を投げて辞表を提出することが三度四度と続いたからなのだ。当時まだ屋敷に入りたてのミリィだけが、忍耐力と図太さと、ちょっとした護衛術などの心得があったことでなんとか彼女のお世話を続けてこられたが、そうでなければ当家では、今も使用人が日替わりで交代するような悪習が続けられていたかもしれない。

 しかし、まさかあのような出来事が起こるとは。