「他にも、料理長のジムも、厨房においでくださって直接お褒めの言葉をいただいたと言って面食らってたわ。どうみてもおかしいわよね、いつもなら、ちょっとでも気に入らないことがあれば『お前たちはいまだに、私の食事を作るという使命がどれだけ崇高か理解できていないようね。何年この屋敷で働いているの？　三分で作り直せ』とか言いそうなものなのに」
「はいはーい！　私は部屋にお尋ねした際、扉の外から御嬢様が『火の精霊よ！　我が命に従いこの世界に降臨せよ！』とか『ステータスオープン！』とか謎の呪文を発しているのを聞いてしまったのよ。怖いと思わない？」
「「それは別の意味で恐ろしいわねぇ」」

　うんうん頷く彼女たちの噂にある通り、先日の事故で御嬢様は豹変(ひょうへん)してしまわれた。
　
　身支度を整える度にお礼を言われ、使用人の失敗にも寛大になり――時々意味不明な言葉を呟くものの、理不尽な要求は鳴りを潜め、家庭教師から与えられた課題をかかさずこなすし、なんだか大変お健やかな毎日をすごされている。彼女の変化は、使用人たちからすれば奇怪なことこの上ない。