「祈る以外になにをせよというのじゃ。もはやこの国の、カレンベールの命運は尽きようとしているというのに……」

 それを聞き、リーザと呼ばれた女性は抗うように言い募るが――。

「そ、そんなことはありません! 必ずや、私が交渉の末、クラフト王子からあの宝を取り返して参ります! 王子は私たちをお救いくださった方、きちんと話し合えば……」

 その父親である壮年の男性は険しい表情で首を振った。

「いいや、いい加減理解せよ。やつは我々を利用しただけなのだ。クラフト王子は自らが王になるまで決してあれを手放すまい。それまで一年以上はかかろう。たとえその時が訪れたとしても、民草の暮らしが保つまいな。リーザ、お前も王族として覚悟を決める時が来たのだ。すまぬ……力不足の父を許せよ」

 男性は娘の髪を痛ましげに撫で、女性はきつく唇を噛む。

「……近々、王国から親善を目的にした大使たちが来ると聞いていますわ。その方たちに、この窮状を相談すれば」
「当てには出来ぬじゃろう。王太子の差し金だと言うが、彼も自国に攻め込もうとしたこちらのことをよくは思ってはおるまい。後は、そうじゃな……。情けないことに、奇跡が起こるのを待つしか」