これは、ジェミーズ・ドロアー開店の少し前。学園生活に処刑回避の準備にと各方面で忙しいジェミーのとある休日のお話だ。

 ペリエライツ公爵家内の厨房の一角ではなぜか、朝早くから忙しく働くコックたちに混じって、クリーム塗れになった当家の息女が右に左にちょこまかしている。

(ふ~、電気もない世界じゃ、生クリームを泡立てるのも一苦労だわん)
「御嬢様、スポンジの方が焼き上がりやしたぜ~」

 ホイッパー片手に延々とボウルの中のクリームをかき混ぜていたところに、焼き立てのどでかいスポンジを鼻歌交じりで持ってきたのは三ツ星シェフ並みの腕前を持つ料理長のジムだ。

「悪いわねぇ。無理を聞いてもらっちゃって」
「いやぁ、他ならぬ御嬢様の頼みとくれば、聞かねぇわけにはまいりませんや。どうぞ、ここにあるもんは好きなように使ってやってくだせぇ」
「ありがと~!」