俺の彼女は高校教師

 突っ走っていた美和がいきなり急ブレーキを踏み込んだ。 「どうしたんだよいきなり?」
美和は黙って前を指差している。 見るとフラフラと車が走ってくるのが見えた。 「ユーターンしよう。」
急ブレーキの次は急カーブ、急ハンドルに急発進。 「おいおい、どうしたんだよ?」
「訳は後で話すわ。」 そう言って坂を駆け下りると後ろのほうでガチャンってものすごい音がした。
「落ちたのね。 警察呼ばなきゃ、、、。」 美和が電話をしている間、俺は車を降りて現場まで戻ってきた。
 白い軽自動車だ。 それにしてもこんな所じゃ何も出来ないぞ。
立ち尽くしていると美和が走ってきた。 「もうすぐ警察が来るわ。 そしたらこの辺はしばらく通れないわね。」
 下を見下ろすと誰かが居るような、、、。 「運転手だね。 あの人だけなのかなあ?」
「そうらしいわね。 でもかなりフラフラしてたけど、、、。」 「酔っ払ってたんじゃないか?」
「でもそれだけじゃないような気がするなあ。」 「何で?」
「目が死んでたのよ。」 「どういうこと?」
「たぶん、く、す、り。」 「薬か。 変なの多いからなあ。」
 話している所にサイレンが近付いて来た。 「ここですか?」
美和が崖下を指差すとお巡りが数人、下へ下りて行った。
 ある程度の状況を話してから俺たちはまたフェアレディーでマンションへ向かったのですが、、、。
「しばらくして美和のスマホが鳴った。 「すいません。 吉野町警察署の者ですが、、、。」
「何でしょう?」 「事故を起こした男が「赤い車が威嚇してきたから落ちたんだ。」って言い張ってるんですが何も無かったんですか?」
「何も有りませんよ。 初めて見た車だし変だなとは思いましたけど。」 「変だったんですか?」
「ええ。 酔っ払ったみたいにフラフラ走ってたんで、、、。」 「ありがとうございます。 失礼しました。」
 「警察も大変ねえ。」 「何が?」
「私があの車を威嚇してたんだって。」 「とんでもない話だなあ。」
「まあね、捕まった人は言いたい放題に言いたいことを言うのよ。 迷惑千万ねえ。」 「ほんとだ。 聞かなくてもいいのに。」
「でも聞かないと「俺の話を聞いてくれない‼」って騒ぎだすのよ。 相手はお子様なんだから。」 「それもやだなあ。」
 美和は気分を入れ替えるように紅茶を注いだ。 いい匂いだ。

 ジャズを聞きながら紅茶を飲む。 何となくセレブっぽく感じるなあ。
美和はというと向かい側に座って静かに紅茶を飲んでいる。 こんな時の美和っていつになく女って感じだよなあ。
 お互いに黙ったまま紅茶を飲んでいると俺のスマホが鳴った。 (誰だろう?)
取り出して見てみるとなんとまあ香澄じゃあーーりませんか。 俺はそのままスマホをポケットに戻してティーカップに手を伸ばした。
「出なくてもいいの?」 「明日、学校で話せるんだからいいよ。」
「香澄ちゃんでしょう?」 「よく分かったね。」
「だって弘明君にメールか電話を寄越す人って私か香澄ちゃんくらいでしょう?」 「んんんんんんんん、何とも言いませんが。」
 「香澄ちゃんねえ。 あの子 思い込んだら突進するタイプよね。」 「そう。 この12年はずっとそれだった。」
「でもさあ12年も思い続けるってすごいことだよ。 振られるかもしれないのに。」 「そこがあいつの不思議な所なんだ。 乗り換えたっていいはずなのに。」
「乗り換えたくても出来なかったのねえ。 素直過ぎて。」 「素直なのかなあ?」
「そう思うわよ。 私より素直なんじゃない?」 「そうは思えないけどなあ。」
 二人で紅茶を飲んでいるとドアチャイムが鳴った。 「見てくる。」
美和はそろそろとドアに手を伸ばす。 開けてみると、、、。
「あらあら、夢雨。 どうしたの?」 「暇だからお邪魔しようと思って。」
「まあ入って。 宏明君も来てるから。」 「ふーん、そうなんだ。」
 大して俺には興味も関心も無さそうだな。 まあいいけど、、、。
「こんにちは。」 「ああ、こんにちは。」
お互いに一応形だけの挨拶をしてカップに目を落とす。 「夢雨も飲むよね?」
「そうだなあ。 シナモンティーだったらいいなあ。」 「分かった。 出してくるから待ってて。」
 (主張の強い女だなあ。) 「ねえ、嫌な女だなって思ったでしょう?」
(ギク、、、。) 「いいんだ。 嫌われてても。 私慣れてるから。」
 「夢雨、シナモンティー 入ったよ。」 「ああ、ありがとう。」
 それから二人はバリ島の話で盛り上がっている。 俺はさっぱり分かんない。
 「だからさあ、あそこのリゾートホテルに行ってみたいんだ。」 「夢雨なら行けるんじゃないの?」
「でももうちっとなんだよなあ。」 「何が?」
「欲しい物が多くて貯まらないのよ なかなか。」 「そっか。」
 俺はこの二人の話にどうやって付いて行けばいいんだよ? さっきから?マークが宇宙遊泳してんだけど、、、。
その調子で4時まで喋りまくった夢雨は安心したように帰っていった。 「ごめんね。 話に付いてこれなかったでしょう?」
「うん。」 「夢雨って将来は日本を離れたいって思ってるのよ。 だから今からあっちこっち飛び回ってるんだ。」
「ふーん。 そうなの。 俺とは合わないね。」 「そうだろうなあ。 考え方違うから。」
「そろそろ帰ろうかな。」 「そう? ごめんね、せっかく来てもらったのに。」
「いいよ。 次は夢雨が来ない日に遊びに来るから。」 そう言って俺は部屋を出る。
 帰り際、美和は車の中で俺にキスをしてきた。 「美和、、、。」
「またのんびり遊びに来てね。 待ってるから。」 「うん。」
 そのまま家に入っても何か落ち着かない。 不意のキスに驚いたからかなあ?
母ちゃんたちはまだまだ帰ってこない。 安心して部屋で寝転んでいたら、、、。
「ねえねえ弘明君。 さっきは何で電話に出なかったの?」って香澄が電話を掛けてきた。 「うっせえやつだなあ。」
「あらまあ、彼女に向かってうっせえだって。 oh、怖い怖い。」 「何だよ? お前が甘えてくるほうが怖いけど。」
「何ですって? 甘えてるほうが怖い?」 「そうだよ。 お前は元々きもいんだから引っ込んでなさい。」
「言ったなあ? 許さないんだからーーーー。」 「いいよ。 許してもらおうなんてこれっぽっちも思ってないから。」
「泣いちゃうぞーーーーー。」 「そう言いながら笑ってんだろう?」
「ブ、痛いとこ突いてこないでよ。 馬鹿。」 「また始まった。 お嬢様の馬鹿宣言。」
「何が馬鹿宣言よ?」 「何か用でも有ったのか?」
「特に無いけど、、、。」 「あっそう。 俺の声は十分に聴いたんだからもういいよな?」
「待って待って。 切らないでよーーーー。」 俺は騒いでる香澄を無視して電話を切った。
「たまには静かにしててほしいもんだよなあ。 なあ、紀子ちゃん。」 って誰だよ?
俺はまた床に寝転がるとそのまま爆睡してしまった。
 「おーーーーーい、飯だぞーーーーーー。」 耳元で誰かが叫んでいる。
「誰だよ?」 「私よ。」
(ンギャーー、美和。」 「何寝ぼけてるの? 起きなさいよ。 夕食なんだから。」
「何だよ、姉ちゃんか。」 「姉ちゃんかは無いでしょう? ばらしちゃうぞ。」
「待て待て。 それはまずい。」 「だったらさっさと起きなさいよ。」
「分かった。 分かったから。」 夢を見ていたのに姉ちゃんに起こされてしまった。
今夜も姉ちゃんに追及されそうだなあ。 嫌だなあ。