俺の彼女は高校教師

 翌9日からは別行動で面接を受けに行きます。 香澄も小百合も律子も俺も朝から緊張しまくり。
その中で俺と小百合は気晴らしのお喋りをしてます。 「だからさあ、あの動画はちっとねえ。」
「そうだよなあ。 話は面白いけど中身が無いんだよな。」 「それじゃあさあクレアさんの動画はどう?」
「クレア? ああ、あのニュース系ね。 うーーーーんって感じかなあ。」 「そうなんだ。」
 お喋りしながら資料を読み返し、顔を上げてはお喋りをする。 そうやって緊張しないように気を使ってる。
香澄はというとさっきからずっと緊張しっぱなし。 時々溜息を吐いて辺りを見回しております。
 就職組は会議室に集められて隣の小会議室で行われる面接を待ってます。 まるで死刑を待っている囚人みたい。
一人ずつ呼ばれて面接官と向き合います。 希望とか夢とかいろんなことを聞かれるらしい。
終わって出てくると疲れ切った子犬みたい。 香澄までさすがにおとなしくなってます。
 昼休みもまるで葬式みたいにみんな黙り込んでしまって、、、。 進学組はそんな空気にもお構いなし。
センター試験が近付いてくるとくしゃみ一つにも過敏反応してしまう。 だからなのか、香澄も廊下に出てからどでかいくしゃみをする始末。
 そのたびに大爆笑をするやつが居る。 「またやってるわ。」
小百合はそいつらを思い切り冷めた目で睨みつけるのであります。 怖い怖い。
 こんな日は図書館に逃げ込んで本を読み漁る坊ちゃんになるのが一番。 そう思って『坊ちゃん』を出してきた。
パラパラと捲っていると「私も読もうかな。」って言いながらミナッチが入ってきた。 そして何となく俺の隣に座るんだ。
 仄かに香水が香ってくる。 美和とは違うやつだな。
(確か35歳とか言ってたっけ。 それでもまだ独身なんだよな。) 本を読みながらチラッとミナッチを見る。
ミナッチが読んでいるのは、、、? あらま、『草枕』ではないかい。
二人並んで夏目漱石の本を読んでたのね? 珍しいことも有るもんだなあ。
 15分ほど読み進めてから揃って顔を上げる。 「先生も夏目漱石好きなの?」
「そうねえ。 ずっと前に『坊ちゃん』を読んでから好きになったんだ。」 「そうなんだね。」
「最近の作家もいいけどさあ、やっぱり明治の作家はどっか勢いが有って好きだなあ。」 「同感。」
 ミナッチはまだまだ彼氏も居ないんだって言ってたっけ。 でもさあ、あと2か月くらいでお別れなんだよなあ。
「弘明君さあ、最近は香澄ちゃんを嗾けたりしてない?」 (ギク、、、。)
「まだやってるのね? いい加減やめなさいよ。」 「そうだよね。 気を付ける。」
 ミナッチはどっか厳しい顔でそう言うとまた本を開いた。 昼休みはこうして静かに過ぎていくのです。

 放課後、俺が昇降口に来ると香澄が出ようとしているところだった。 何気にその後ろを追い掛けてみる。
そしたら、、、。 ゴン‼
「いてえ!」 「弘明君 また香澄を騒がせようとしてたわね?」
小百合が思い切り拳骨をぶつけてきたから大変。 「痛いなあ。」
「うるさいほうがよっぽどに迷惑よ。」 「そりゃそうだろうけど、、、。」
「ミナッチにも言われたんでしょう? いい加減引っ掛けるのはやめなさいよ。」 「んだなあ。」
小百合は香澄のことになると異常なくらい敏感に反応するんだ。 気持ちは分からんでもないけど、、、。
まあね、これまで行方不明事件だって起こして真紀まで引っ張り出して騒ぎになったんだからしょうがないか。 小百合はそれくらい真面目な女だったんだ。
 ポニーテールの可愛いやつだけど怒らせると久保山先生も必死に宥めてくるくらいに噴火するんだよなあ こいつ。 だからなのか、クラスの男どももラブレターすら書いたことは無い。
破り捨てられるのは分かってるから。
 俺? もっちろんラブレターなんか書いたことは無いよ。
美和とだってラブメールすらしなかったんだからね。 自慢。
 のんびりと小百合が歩いてくる。 北風が妙に冷たく感じる。
 「コーヒーでも買おうかな。」 そう言ってコンビニへ入る。
そしたら小百合も付いてきた。 「どうしたの? びっくりした顔して。」
「いやいや付いてくるとは思わなかったからさあ。」 「監視してたのよ。 香澄が来ないかどうか。」
「もう来ないんじゃないの? 先に駅まで行っちゃったみたいだし。」 「甘いなあ。 香澄って意外としつこいのよ。」
「それは前からの付き合いでよく分かってるよ。」 「ほんとかなあ?」
 取り敢えずホットコーヒーを2本買ってコンビニを出る。 「はい。」
「ありがとう。 寒いねえ。」 コーヒーを飲みながら俺たちは並んで歩いて行く。
そこへ何処かで見たような車が走ってくるのが見えた。 (美和じゃねえ?)
でもその車は俺のことなど気にせずに走り去ってしまった。 そろそろ駅だ。
 いつもの電車が出て行くところだ。 俺は改札を抜けると隅っこの椅子に腰を下ろした。 そこへ小百合もやってきた。
「なんかさあ、デートしてるみたいだね。」 「そうだなあ。 今までずっと香澄と一緒だったのに。」
「香澄とはどんな話をしてたの?」 「どんなって言われても困るなあ。 大した話はしなかったから。」
「そうなんだね。 なんか寂しいなあ。」 「いっつもワーワーキャーキャー言ってるだけだったもんだからさあ、、、。」
「それじゃあ小学生じゃない。 進歩してないなあ。」 「だよ。 いきなり泣き出すし怒り出すし、、、。」
「でもそれってさあ弘明君だからやってたのよね?」 「だと思うよ。」
「ふーん。 大変だったんだなあ。」 コーヒーを飲み干した小百合はゴミ箱に缶を投げると立ち上がった。
 不意に腰のラインが目に付いた俺は何とも言えない顔になって、、、。 「何処見てるのよ?」
「いやいや、何でもないってば。」 「その眼は怪しいなあ。 もしかしてお尻でも見てた?」
「そんなことねえよ。」 「正直に話したほうがいいんじゃないかなあ? 私は怒らないからさあ。」
ニコニコしながら小百合は追及してくる。 「お尻だよ。」
「そうか。 やっぱりか。」 機嫌を悪くしたのかと思ったら、、、。
「見てもいいけど変態みたいな眼で見ないでね。」って笑いながら言ってきた。 これにはさすがに返事に困るわ。
 確かにねえ小百合ってスタイルいいんだよ。 香澄なんて比べ物にならんくらいにね。
いつかグラドルにでもなるんじゃないかって思うくらいだ。 だから授業中でもじーーーーっと見てるやつは居る。
 休み時間になると「ねえねえ見てたよね?」ってわざとらしく聞いたりするから男どもは冷や汗を掻きながら逃げ回るんだ。 怖いよなあ。
 そんな小百合と各停に乗る。 椅子に座ると窓の外に目をやる。
小百合は面接のことを思い出しているらしい。 (あんまり喋れなかったな。 落ちたかも?)
そう思うと一生が終わってしまったような気になってしまう。 諦めたくはないんだけどな。
 俺はというと(まあ、やることはやったんだ。 何とでもなるさ。)って表向きは割り切ってるんだけどどっかなあ、、、。
「着いたから降りるね。」 不意に小百合が声を掛けてきた。
「あいよ。 また明日な。」 いつもと違う穏やかな気持ちで小百合を見送る。
 いつもなら寝ている香澄を叩き起こすか降り損なった香澄とバトルしているかなのに、、、。
それにしても3年間 よく乗ったなあ。 寝過ごしたことも有るし途中で止まっちまったことも有るけど。
河原田にまで行った時にはさすがにブルーになったけどなあ。 さあ次だ。