見せかけロマンチック




「私の代わりに怒ってくれてありがとう」

「…ごめん、俺怖かったよね」

「びっくりしただけ!私スッキリしたよ」

「俺もスッキリしたわ。相変わらず怒ると怖えのな」


いつの間にか近くに来ていた知世が、私に同調して頷いていた。
お兄ちゃんから離れて知世を横目で見る。


「知世、お兄ちゃんのこと怒らせたの?」

「…俺じゃねえよ」

「…ふーん」


なんで知世はお兄ちゃんが怒ると怖いって知ってんの?
そう思って聞くと、知世の表情が曇って。
あ、これ触れちゃいけないかもと悟る。

お兄ちゃんもどこか浮かない顔をして知世を見た。

…お兄ちゃんは知ってるんだと思う。知世について、私が知らないことも全部。

だからと言って自分から探る気にはならないので、空気を変えるようにお兄ちゃんに向き直った。


「ちなみに、お兄ちゃんはあの人達に何したの?」

「…それは、いくら可愛い妹の頼みでも教えられないな」

「えーっ!」


はぐらかすように微笑まれて、大きな声を出す。

そのままお兄ちゃんはスルリと、私と知世の間を通り抜けてソファに座って。

私は知世と顔を合わせて「絶対怒らせないようにしよう…」と目でやり取りをしたのだった。