──────春、高校入学式。
『新入生代表挨拶。新入生代表、天羽麗(あもう うらら)』
「────はい」
静まり返った体育館に、高く透き通った声が響き渡った。
周りの人達は目線だけをその声の主に向け、そして時が止まったかのように目を逸らせなくなる。
コツコツコツ。
背筋を伸ばし堂々と歩く小柄な少女に、生徒も、保護者も、先生までもが息を飲む。
足音だけが響く体育館内で、美しい所作を魅せて壇上の前でお辞儀をした少女が微笑んで口を開いた。
「新入生を代表いたしましてご挨拶申し上げます。────────」
マイクを通して響く声は、聞いている全員の心を奪っている。
緊張している様子もなくリラックスした表情で挨拶を読み上げる少女は、あっという間にこの場にいる人間を虜にさせた。
「以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます。新入生代表、天羽麗」
最後まで美しい笑顔を保ち続けたままお辞儀をした少女は、また微笑んだ。
そう。
今日この場にいる全員が、天使を見たのだ。

