妖狐少女と御曹司~最強女子は御曹司くんのニセ彼女!?~


 映画が始まり、館内が薄暗くなる。

 映画は評判通りの泣ける純愛物語。

 ラストシーンでは、すすり泣く声が静かな館内に響きわたるほど。

 私も目の奥が熱くなってきて、あふれる涙をこらえきれなくなってきた。

 うわあっ。すごく切ないっ。

 私は涙をふこうとハンカチの入っているカバンに手を伸ばした。

 その時、隣に座っていた蒼木先輩と目が合ってしまった。

 ひゃっ……。

 私一人だけ号泣してて恥ずかしいっ……。

 私が慌てて頬を伝う涙を手でぬぐおうとすると、スッと横から先輩の手が伸びてきた。

 先輩の白く手がない指が私の頬を滑り、目の横の涙をすくい取る。

「泣いてんの? 可愛いな」

 耳元で低くて優しい声がした。

 ドクン、ドクン。

 映画の音響よりも大きな音で、自分の心臓の音が響く。

 スクリーンの淡い光に照らされた先輩の顔が夢みたいに綺麗で、それだけで胸がいっぱいになる。

 もう。

 せっかく面白い映画だったのに。

 先輩のせいで映画のストーリーがちっとも頭に入ってこないよ……。