「でもせっかくだしお礼でも……」
「いえ! 困った人を助けるのは当然のことなので、お礼はいりません」
「いや、でも――」
「私、お店の手伝いがあるのでこれで失礼します!」
「えっ、ちょっと」
俺が引き留めたにもかかわらず、彼女はあっという間に走り去ってしまった。
こんなことは初めてだった。
俺と関わる女子は、たいてい俺に媚びたがる。
俺に恩を売ったりかいがいしく尽くしたりして好かれたがる。
どうせ俺の財産目当てなんだろうな。
そう思うと腹が立って、いつしか俺はどんどん女子に冷たくなっていった。
それが彼女は俺に媚びるどころか「人助けをするのは当然だ」と言って颯爽と走り去ってしまった。
なんて謙虚で素直な心の持ち主なのだろう。
俺はすっかり彼女に心をうばわれてしまった。
いったい彼女は誰なんだ?
あの不思議な力は一体?
どこに行けば会えるんだ?
頭の中は彼女のことでいっぱいだった。


