妖狐少女と御曹司~最強女子は御曹司くんのニセ彼女!?~

「何だ……これ」

 俺はとっさにそこを離れようとした。

 だが、足が動かない。

 よく見ると、俺の足にも、真っ黒な手がびっしりとからみついていた。

 背筋がゾッと寒くなり、俺は叫んだ。

「うわあっ! はなせ!!」
 
 反対の足で蹴っても、黒い手は俺の足を放そうとしない。

 むしろさっきよりも強く俺の足をつかんでくる。

 俺は道路に転がりガードレールに手をかけた。

 必死に水路に引き込まれないように抵抗する。

 だが足を引っぱる力は強くなるばかりだ。

 どうしたらいいんだ!?

 俺の頭の中が真っ白になったその時――。

「あんたたち、その子を放しなさいっ」

 突然現れたのは黒髪の美少女だった。

 ――誰だ?

 つややかな短い黒髪に、頬を桃色に染めた白い肌。

 何より印象的な、意志の強そうな燃えさかる大きな瞳。

 彼女は胸元からお札を取り出すと、黒い手に張り付けた。

 謎の黒い手が、解けるように俺の足からはがれていく。

 彼女は一体……?

 俺は唾をゴクリと飲みこみながら立ち上がろうとした。

 とりあえず彼女にお礼を言わないと。

 だが彼女は険しい顔で水路を見つめている。

 俺も水路に視線をやると、ゴポゴポと音がして水路からさっきよりも巨大な手が現れた。

 ――うわっ!?

 動揺する俺の横で、彼女は冷静につぶやいた。

「もう、しょうがないわね」

 彼女は指で印のようなものを結ぶと、何やら呪文を唱えた。

「――狐火(きつねび)!!」

 彼女の手から炎が噴き出す。