妖狐少女と御曹司~最強女子は御曹司くんのニセ彼女!?~

 それなら――。
 
「……それならこちらも本気、出させてもらうね」

 私は手をそっと左肩に置いた。
 
 蝶の形のあざに指を滑らせる。

 今こそ本当の力を開放する時――。

「妖力開放」

 唱えたとたん、紅く光る蝶が私の周りを何匹も舞う。

 ひらひら舞う蝶は、まるで火の粉のように煌めいて私の体をおおう。

 ボブだった髪が、ふわりと膝まで伸びる。

 紺色の制服は蝶をあしらった真っ赤な着物へと変わった。

 頭には金色の耳。

 そしてお尻には長い尾が九本。

 私はメガネを脱ぎ捨て、じっと大蛇を見すえた。

 凪季と竜くんが私の姿を見て目を大きく見開く。

「朱里……?」

 つぶやいた凪季の言葉に、私はうなずいた。

 そう、これが私の本当の姿。

 大妖怪、九尾の狐の能力、そして姿形すべてを受け継いだ巫女――それが私。

「待っててね、今、終わらせるから」

 私は竜くんに向き直った。

 竜くんは腹を抱えて笑い始める。

「ははっ、すごいや。朱里ちゃん、思ったより妖怪の血が濃いんだねぇ。先祖返りってやつかな?」

「――そうかもね」

 私はプールの水面に映る自分の姿を見つめた。

 狐のしっぽに狐の尾。目も紅く光ってるし、もう完全に妖怪みたいだ。

 竜くんはそんな私の姿を見て目を細める。

「ふふ、ますますその力、欲しくなったよ!」

 そう言って、右手を振り上げる竜くん。

 黒い蛇が、牙をむいて私に襲いかかってきた。