ビルと家のあいだにひっそりと建つ小さな神社。

 よく見ないと見落としちゃうくらい小さなこの神社には、大昔、このあたりを支配した大妖怪――妖狐(ようこ)がまつられている。

 中学二年の私、仁科(にしな)朱里(あかり)は、毎朝そこに新鮮な油揚げをお供えするのが日課なんだ。

「これでよし……っと」

 私は小さな狐の石像の前に油揚げを供えると、神社の掃除を始めた。
 
 私は先祖代々伝わるここ「水無月稲荷神社」の後つぎ。

 だからこうして毎日のように学校に行く前に、家の裏にある神社の掃除をしているんだけど……。

 ひゅ~。

 冷たい風が吹いて、茶色い落ち葉がカサカサと音を立てて転がる。

 私は目の前のボロ神社を見渡すとため息をついた。

「はあ、面倒くさい……」

 季節は秋。

 いくら掃除をしても次から次へと枯れ葉がふって来る。

 もう、きりがないよ。

「ああ、やだやだ。何で私がこんなことしなくちゃいけないの」

 私がぶつくさ文句を言っていると、お母さんがやって来た。

「だってしょうがないでしょ。あなたはお狐様の力を受け継ぐ巫女なんだから」

 お母さんは私が着ていた制服をずらし、肩の所にある蝶みたいな形のあざを指さした。

「ほら、この肩の所にあるあざがその証拠よ」

 私は肩のあざをまじまじと見た。

 どうみても、ただのケガのあとにしか見えない。

 けどお母さんが言うには、これが私が妖狐の力を受け継いでいる(あかし)なんだって。