【月side】
「ふぅ…危なっ」
「…いやいや、危なっ、で済む?あのルナ様に絡まれて…っ!絶対月、目をつけられちゃったよ!」
「えっ、そうかな?」
言いたいことを言っただけなのに。
というか、ルナ様とやらは確かに顔立ちが整っていたけれど、性格は最悪。
「もう、月…。本当に大丈夫?」
「やだなぁ。大丈夫だってば」
「…まぁ、ルナ様も機嫌のいいときと悪いときの差がすごいから、機嫌の悪いときは話しちゃダメだよ?」
お母さんのように言う真帆に、うなずいておいた。
「じゃあ…また明日ね。放課後一緒に帰ろ。くれぐれも気をつけてね!」
「はいは〜い。ありがとね」
わかれ道で手を振り合い、私は家路を急いだ。
翌日、昨日のことを忘れていた私は、のんきに登校していた。
私は真帆の忠告に従い、目立たずに高校を卒業するため、メガネをつけている。といっても、本当は目がいいから、度のはいっていないレンズだけど。
「…い!おい!そこの冴えないメガネ‼︎」
「はいっ‼︎‼︎‼︎」
振り返ると、イケメン男子が立っていた。
機嫌はあまりよろしくなさそう。
「わっ、イケメン…」
思わずつぶやくと、イケメン男子はさらにイライラしたのか、
「昨日の借りを返しに来たぜ」
とゴキゴキと指を鳴らした。
「あっ、昨日の人ですね!昨日は夜ご飯食べれましたか?」
「ふざけんじゃねぇよ‼︎」
なぐられる、と思ったそのとき。
「ルナ!こんなとこで何やってんだァ?」
いつの間にか不良そうな男子が3人、立っていた。
制服は着崩してるけど、同じ学校の人たちだ…!
「女なんかナンパして、なにしてんだよ__」
その1人が言い終わる前に、ルナがみぞおちめがけてパンチを放った。
ルナは私を横目で見ると、
「どけ」
と一言。
すかさず残りの2人を飛び蹴りして、3人は地面に倒れた。
今のうちだ!
私はそろそろとその場を離れ、ある程度距離取ると、ダッシュで学校へ向かった。
ここまで来ればもう安心。
ホッと一息ついたとき、同じ学校の男子生徒から声をかけられた。
「君、同じ学校の子かぁ…めずらしいね、女の子。俺と付き合ってよ」
付き合うって…どっちの?
それにしても、チャラそうな男子だ。
「俺に惚れちゃった?じゃあ、行こっか。教室どこ?」
自然に恋人つなぎをされて、ふりほどこうと思ったけど力をいれられた。
学校へ入っていき、廊下を歩いているとき。
私は、思い切って声をかけた。
「あのっ…!」
「あ?なんか文句でもあんのかよ?」
さっきの優しい雰囲気は一変し、にらまれた。
「君は大人しく着いてきて」
目が笑ってない。
怖いよ!どこに連れていくつもり…?
「そいつは俺のおもちゃだ。勝手につれさらうんじゃねぇよ」
さっき聞いたばかりの声。
この声は…!
「ひっ…すみませんルナ様!すみません!どうか見逃してください……」
いきなりチャラい男子は土下座をした。
土下座をしたにも関わらず、ルナは蹴り飛ばした。
「お前…」
「……はい」
「さっきは偶然命拾いしたみたいだが、今度はそうはさせねぇよ。今日からお前は俺のおもちゃだ」
おもちゃ、って。
真帆〜!やっぱり目をつけられちゃったみたい…。
「おもちゃなんてイヤです!」
気がつくと叫んでいた。
「…俺に意見するとは……ふん。女のくせに…月、悪くないな」
ルナは目を細めた。
「勝手に悪いとか悪くないとか決められても困ります!」
「せっかく俺が気に入ったというのに?…逆らうなら、コイツみたいになる」
ルナがさっき蹴り飛ばした男子は、うずくまっている。
ゾクっとした。
「じゃ、じゃあ…何すればいいの……?」
「ずっと俺のそばにいろ」
え…?
「俺のものになれば、学校で平和に生活が送れるけどな」
俺のもの…。
「さ、さよならっ!」
私は廊下をダッシュした。
前を見ていなかったせいか、誰かにぶつかってしまった。
「アンタ、俺にいきなり抱きついてくるなんて。悩みでもあった?」
また男子かっー!
手をつかまれたけど、今はピンチなんだよ!
私は力いっぱいその人の頬にパンチした。
「…った!お前ぇ!」
立ちあがろうとしたその男子に、ルナが蹴りをいれた。
「月、お前ケンカ強いんだな」
私は思わず自分の拳を見た。
「…?私って強いの?」
「『私って強いの?』じゃねぇよ。強くてもたかが『女』だ。男にかなうわけじゃない。コイツは雑魚だったみたいだが。で、どうする?俺にボコボコにされたくなかったら__」
「わかったってば!」
思わず言ってしまった私を意地悪な笑顔でニンマリと見つめ、
「はい、決定な」
「で、でも!俺のそばにいるって…ずっとは無理だよ?」
「正確には、ここは女が入るのはめずらしい学校だ。だから女には虫がつく。お前が他のヤツに利用される前に、俺が利用してやるということだ」
ポカンと口を開けた私に、
「とにかく真面目に学校生活送りたいなら、俺に逆らうなってことだ」
そう言うと私の伊達メガネを取り、窓から外に放り投げた。
「ちょっとルナ、何するの…!」
「今さらだけどお前、いつから俺のこと呼び捨てにして、敬語も使ってないんだ?」
ギクッ
言われてみれば、そうだった〜‼︎
「す、すみませ…」
慌てて敬語を使ってみるも、
「もういい。さっきからお前は俺の手下だ。呼び方は勝手にしろ」
とルナはそっぽをむいた。
「るーちゃんとかは?」
「それだけはやめろ」
無表情だけど、なんだかかわいい。
先輩なのにね。
「じゃあ、またね!」
学校1のヤンキーと恐れられている人に、こうして会話をしているのが不思議。
私は教室に軽い足取りで向かった。
放課後、私は真帆と待ち合わせした場所へ到着した。
「月〜!」
「真帆!」
「今日ごめんね、これから習い事!ちょっと急いで帰る!自分で言ったことなのにごめ〜ん!」
風のように走りぬけていった真帆は、あっという間に見えなくなった。
まぁ、私はゆっくり帰ろっと。