【ルナside】
『アイツ』の第一印象は、バカ、だった。
今年で俺は高3。
アイツは、高1で入学したばっかり。
放課後、アイツは自販機で飲み物を買おうとしていた。
別に俺はアイツなんか知らなかった。だから、普通に通り過ぎようとした。
「月、高校どんな感じだった?」
「あっ、真帆!別に目立った特徴はないけど…うーん。女子が少ない、かな?なんでだろう?」
アイツ、まさか俺たちの学校が不良校ってことを知らないのか?
俺は歩くスピードをゆるめた。
「何買うの?」
「オレンジジュース」
「あはは、月はオレンジジュース大好きだね」
そう言いながらもアイツが押したボタンは__
「えっ、あれ?月、オレンジジュース買うんじゃなかったの?」
「わっ、間違えた!水買っちゃったー…」
は?は?
コイツ、バカ通り越して大バカ、なのか?
いや、わざと、じゃねぇよな?
ったく、調子狂うな。
「ま、待って…あの人がルナ様だよ」
アイツの近くにいたダチらしき人が声をひそめてアイツに言った。
俺はアイツのダチの言う通り、満欠 月(みちかけ るな)という名だ。
俺が親の腹の中にいた頃、俺は女と言われていた。
そして両親は俺の名前を俺が生まれる前に決めた。
それが、ルナだった。
ルナなんて完全に女の名前だし、月と書いてルナと読むなんて、キラキラネーム過ぎて嫌だ。
月をラテン語でルナと言うらしい。それに、ローマ神話に登場する月の女神の名だ。
完全に俺は女だ。
だからこの名は嫌いだ。
俺はイライラして、アイツを困らせるようなことをしたくなった。
こんなひん曲がった性格は、正義感の強い両親とは真逆だ。
「おい、そこの女。なんか飯おごれよ」
「えっ…」
アイツは、ビックリしたような顔をした後、
「私、月っていう名前です。『そこの女』じゃありません」
と真っ直ぐに俺に向かって名乗った。
アイツ…月のダチがあせったように月を軽くたたいた。
「あと、私、飲み物買うお金しか持ってなかったので。さようならっ!」
月はダチと一緒に走って行った。
……アイツ…月、か。1年だな。覚えておけ…。