「ハハッ。詩桜は本当ブレないね。昔から真っすぐだ」
私とハルのやりとりを見ていた蜜生くんがおかしそうに笑い出す。
やわらかい表情で私を見つめる彼に思わずドキッと心臓が高鳴った。
「ハル、たしかに俺はお前の気持ちはわかる。けど、やり方が間違ってると思う」
どこか吹っ切れたような蜜生くんの瞳はもう揺らいでいない。
そんな蜜生くんに、ハルはめんどくさそうにため息をこぼした。
「あっそ……。じゃあ、もういいや。口で言ってもわからないなら無理やりにでも連れていく。君達、シュガー連れてきて。僕は先に行くから」
その命令で、扉の方からサングラスをかけたスキンヘッドの男性が現れる。
おそらくハルが話していたSPだろう。
まったく気配を感じなかったことからも相当の手練れだということが伺えた。
じりじりと蜜生くんとの距離を詰めるスキンヘッドの男性は、すぐに彼を捕え、秘密部屋から出ていこうとする。
「蜜生くん……っ!!」
こういう時こそボディーガードである私の出番なのに、縛られて動けないなんて私、何してるんだろう。
自分のふがいなさにじわっと目頭が熱くなる。そして、悔しさからギュッと唇をかみしめた、その時。
「詩桜っ……!待ってて。今、ロープほどくから」
「え、は、初奈ちゃん!?なんでここに……」
突然、ソファの陰から現れた初奈ちゃんに私は目を丸くする。
「佐藤くんから大まかな事情は聞いた。実はここ壁の横に隠し通路があってね、私はそこでいざという時に助けてほしいって待機してたの」
手際よくロープをほどきながら説明をする初奈ちゃんに、私は「そうだったんだ」と小さく呟いた。
「……美春のことも佐藤くんから聞いた。それにさっきの話も全部聞いてたから」
初奈ちゃんの声が震えていてハッとする。そうだ、初奈ちゃんだって不安なんだ。
蜜生くんからどの程度事情を聞いたのかわからないけれど、彼女にとって衝撃的な話ばかりだったに違いない。
それでも、こうして私を助けるために来てくれたんだ。
「初奈ちゃん、ありがとう。私もこれが終わったら初奈ちゃんに話したいことがあるの……。聞いてくれる?」
「えぇ!なんでも聞いてあげるから、まずは無事で戻ってきてね」
初奈ちゃんが笑顔を向けた刹那、私の手足を拘束していたロープがほどけた。



