目が覚めて最初に視界に入ってきたのは、パソコンに向き合う見慣れた蜂蜜色の髪だった。
あぁ、そっか。今、蜜生くんが作業してるんだ。
寝起きの回らない頭でぼんやりとそんなことを考える。
さっきまでの出来事は悪い夢で、いつもの光景だとホッとしたのもつかの間。
「あ、詩桜ちゃん起きた?手荒な真似してゴメンね。僕のSPがちょっとやりすぎちゃったみたいで」
その声を聞いて、我に返った。
「……ハル」
そうだ、今、私がいっしょにいるのは蜜生くんじゃない。彼に似た髪色を持つ少年「ハル」なのだと。
慌てて辺りを見回すと自分がいる場所が、秘密部屋だということに気がついた。
しかも、ロープで手足を縛られていて身動きがとれない。少し力を入れてみるが、簡単にはほどけそうになかった。
「あんまり無理しないほうがいいよ。結構キツめに結んでるからケガしちゃうし。とりあえずシュガーが来るまでゆっくりしてなって」
蜜生くんがいつも座っている椅子に座っているハルはクスリと楽しげに微笑んでいる。
「……蜜生くんは来ないと思うけどな」
つい数十分前、何も言わずに綺羅莉ちゃんと去って行った後ろ姿を思い出し、私は顔を伏せた。
そもそもボディーガードの私が捕まって、依頼主である蜜生くんが助けに来るって完全に立場が逆転しちゃってるし……。
そのことが情けなくて、やるせない気持ちでいっぱいになる。
「そう?僕はそう思わないけどね」
……?
なぜか確信したような言い方をするハルに私が小首をかしげた時、遠くの方からタタッと廊下を走ってくる足音が聞こえてきた。
「ほらね」とハルが私に向かってウインクをした瞬間、バンッと秘密部屋の扉が勢いよく開く。
そこには、今まで見たことのないくらい怖い顔でハルを睨みつける蜜生くんが立っていた。



