「本当にわざとじゃないの……」
気まずそうに下を向く美春ちゃんに私はふるふると首を横に振った。
「わかってるよ。美春ちゃんは何も悪くないから気にしないでね。それより心配してくれてありがとう」
私の返答に対して、美春ちゃんはホッとしたように表情を緩める。
「でも、あの香坂綺羅莉ちゃんってなんであんな嫌な言い方するんだろうね。たぶん、佐藤くんのことが好きなのよ。だからいっしょにいる詩桜ちゃんにマウントとりたいのね。それに、佐藤くんも、佐藤くんだよ。詩桜ちゃんって言う素敵な女の子が近くにいるのにさ。私だったら考えられない!」
ぷんぷんと私の代わりに怒ってくれる彼女に思わずクスッと笑みがこぼれた。
美春ちゃんなりの気づかいなのだと思うと、先ほどまでどんよりと沈んでいた気持ちが少し軽くなった気がする。
「そもそも、詩桜ちゃん以上にボディーガードに適任な子いるとは思えないけどな~」
最後、何の気なしに呟いた美春ちゃんの言葉に、私は「ん?」と違和感を覚えた。
今、ボディーガードって言った……?
私が蜜生くんのボディーガードをだということを知っているのは、学校内では私と蜜生くん、そして山内先生だけのはず。
いつか打ち明けられたらと思ってはいたけれど、まだ初奈ちゃんにも美春ちゃんにも言ってないのに。
「あれ?詩桜ちゃん、急に黙っちゃってどうかした?まだ気分悪い?」
「あ、ううん、えと……。あの聞き間違いだったらごめんね。今、美春ちゃんボディーガードって言わなかった……?」
一瞬、ピタッと美春ちゃんの笑顔がかたまった。
そして、しばらくの沈黙の後。
「……あ~……。私そんなこと言ってた?いや~失言、失言。だめだね。つい口が滑っちゃった」
クスリと口角をあげ、美春ちゃんは今まで見たことがない不敵な笑みを見せたのだ――。



