「えっと……ごめん、誰?」
突然現れた蜜生くんに、加藤くんが戸惑ったように問いかける。
「俺は……」
「おーい!加藤!!何してんだよ。そろそろ試合始まるぞ」
蜜生くんが何か言いかけたのとほぼ同時に、グランドの方から加藤くんを呼ぶ大きな声が聞こえてきた。
おそらく加藤くんのチームメイトだろう。
加藤くんも「わりぃ!今行くわ!」と声をかけている。
「ゴメン。俺もう行かないと。詩桜、今日は会えて嬉しかったよ。また会おうな」
それだけ言い残し、足早にその場を去っていく加藤くん。その後ろ姿が見えなくなった頃、ようやく私は息をつくことができた。
「……っ、ふぅ」
「詩桜、大丈夫か?」
「うん、ありがとう。ちょっとビックリしちゃった」
アハハと苦笑い気味にそう答える。
「……もしかしてアイツが例のヤツ?」
以前、蜜生くんに私が武道を辞めたきっかけを話したことがあった。
勘の良い蜜生くんのことだ。
いつもと違う私の様子に、何かを感じとったのかもしれない。
「……うん。まぁね。でも大丈夫。まさか再会すると思わなくてちょっとビックリしちゃっただけだから。蜜生くんも気にしないでね?」
肯定しつつ、私はこれ以上この話題に触れてほしくなくて、つい念を押すような言い方になってしまった。



