「詩桜、俺、今日はすぐ帰るから、あっちには来なくて大丈夫だよ」
学校の休み時間、コソッと蜜生くんが私に伝えてくる。
「……そう、わかった」
修学旅行から帰ってきて今日で1週間。
ちなみにあの誘拐事件は、実行犯の仲川教授が警察に逮捕されたことで、表向きは解決したことになっている。
ただ、あのスピーカーから聞こえてきた「ハル」という人物に関しては謎のまま。まだよくわかっていない。
蜜生くんや山内先生が水面下で調べているみたいだけど、私には詳しいことは教えてくれないし、正直そこに対して不満があった。
修学旅行の時は、ボディーガードてして信頼してもらえてるって感じてたのに。あの言葉は嘘だったの?
それにここ数日、明らかに蜜生くんの態度が今までと違う。
だって、わざわざ念を押すように「来なくて大丈夫」なんて言い方されたことなかったから……。
なんだか蜜生くんからわざと距離を置かれているようで、チクチクと胸が痛む。
私の考えすぎなのかな?
1人でそんなモヤモヤを抱え込んでいると。
「詩桜ちゃん、今ちょっといいかな?」
「う、うん、大丈夫だよ。青山くんどうかした?」
暗い顔を見られないように、とっさに笑顔をつくる。
私に声をかけてきたのは、修学旅行で同じグループだった青山くんだ。
実は修学旅行以来、青山くんや篠田くんとは比較的によく話す関係になっている。
特に青山くんはフレンドリーで、
『遠城寺さんって呼ぶの長いから名前で呼んでもいい?』
と、私のことをいつの間にか「詩桜ちゃん」と呼ぶようになっていた。
「えっと、今週の土曜日さ。サッカー部の練習試合あるんだけどよかったら観に来ないかな?もちろん初奈ちゃんや美春ちゃんも来れたら一緒に。篠田も俺もレギュラーだから応援してもらえると嬉しいなと思って」
「え!2人とも試合出るんだ!すごいね、土曜日かぁ……。初奈ちゃん達にも聞いてみるね」



