「あ!詩桜ちゃん、初奈ちゃん。おはよ〜。私も今年は同じクラスだよ。またよろしくね」
「わぁ!美春ちゃんも!嬉しい〜。こちらこそよろしくね」
「美春よろしく〜」
3年1組の教室に入った瞬間、パタパタと駆け寄って来てくれたのは、1年生の時に同じクラスだった花園美春ちゃんだ。
艶のある黒髪ボブヘアで赤いメガネをかけている彼女は、成績優秀で1年生の時はクラス委員長をしてくれていた。
「ねぇねぇ!そういえば2人とも掲示板ちゃんと見てきた??なんと私達、王子とおなじクラスだよ〜。ラッキーだよね!」
キャッと嬉しそうに頬を染める美春ちゃんに、私と初奈ちゃんは顔を見合わせる。
「王子ってたしか、1ヶ月前に転校してきて話題になってた佐藤くんのことよね?」
私も気になっていたことを先に聞いてくれたのは、初奈ちゃんだ。
「そうだよ……!佐藤蜜生くん!2年の時と言っても1ヶ月だけだけどね。同じクラスだったんだけどさ、もう本当に芸能人かっていうくらいイケメンなの」
ポッと頬を赤く染める美春ちゃん。
そういえば美春ちゃんってイケメンハンターだったもんなぁ。
中学1年生で同じクラスになったばかりの頃、よく彼女にファッション雑誌やアイドル雑誌を借してもらっていたことを思い出す。
『このドラマは、ヒロインの女優さんと、当て馬役の俳優さんの顔がいいんだよ〜!俳優さんの方は元々は舞台俳優さんなの!』
しかも、詳しい解説付き。
ある意味彼女のおかげで、小学校時代武道一筋だった私も、世間一般の流行りを知れたと言っても過言ではなかった。
「たしか佐藤くんって2年生の時は5組だったよね?私も初奈ちゃんも1組だったから教室の場所も遠いし、なんだかんだしてたら、春休みになっちゃったし……。遠目で見かけたことはあるけど常に人に囲まれてて、顔合わす機会ほとんどなかったもんね〜」
「そうそう。でも、言われてみればうちのクラスでも結構女子の中で話題に上がってたよね。私と詩桜は、わざわざ見に行くタイプじゃなかったけど。ほら特に、香坂あたりがテンション高めだったじゃん」
初奈ちゃんに言われ、私も香坂さんのグループがしばらく佐藤くんの話題で盛り上がっていたことを思い出す。
ちなみに初奈ちゃんは、普通のイケメンよりも、うちのお父さんみたいなワイルド系が好みらしい……。
珍しい限りだ。
「えぇ……!じゃあ、2人ともちゃんと佐藤くんの顔しっかり見てないの?じゃあ、今日からじっくり眺めとくといいよ〜。本当眼福だから」
うっとりとした表情の美春ちゃんに初奈ちゃんは軽く引いているのか、苦笑いを浮かべている。
でも、美春ちゃんをそこまで言わせる佐藤くんっていったいどんな人物なんだろう……。
新学期初日、話題に上がった佐藤蜜生くん。
彼との出会いが今後の私の学校生活に波乱を巻き起こすきっかけになるとは、この時の私は想像もしていなかったんだ――。



