「……っ」
目を覚ました瞬間、椅子に座った状態で自分の手足がロープで縛られていることに気がついた。
少し手足を動かしてみるも、思った以上にきつく縛られていて、ほどける気配はない。
先ほど詩桜が人とぶつかって落ちたモノに注意が向けられた束の間、後ろから口を塞がれたことまでは覚えているが、そこからの記憶が曖昧だ。
「何か眠り薬でもかがされたのか……」
ポツリと呟いた俺は、まず現状を把握しようと辺りをゆっくりと見回してみる。
古びた木造の建物内。
窓もカーテンも閉められており、光も入ってこないせいか薄暗い。
ややかび臭いことからも、普段はあまり使われていない場所なのだと察せられた。
詩桜といた安井金比羅宮から離れた別の場所なのか……?
そうこうしているうちに、眠り薬の効果も少しずつきれてきたのか、だんだんと頭がさえてくる。
さて、と。
詩桜たちは作戦通りにコトを進めているだろうか。
1人でそんなことを考え始めていた時。
ガチャ。
目の前にある扉が開き、誰かが室内に入ってきた。
「……ッ」
扉の外から差し込んできた明るい日差しに俺はほんの少し目がくらむ。
「おや、佐藤くん。目が覚めたかい?」
聞いたことのある穏やかな中年男性の声に、俺は今までの疑惑が確信へと変わった。
「やっぱりアンタか……。いい加減しつこいよ。仲川教授」
面倒くさそうに言葉を紡ぐ俺に向かって、ハハッと楽しげに笑うこの男の名前は、仲川明彦。
俺がアメリカで通っていた大学で、情報学を教えていた教授でもある。
大学在学時から、俺に目をつけて、自分のゼミに来ないかと、勧誘してきたり、とにかくしつこかったのを覚えている。
「佐藤くんはあいかわらず目上の人間に対する言葉遣いがなってないねぇ。でも、君の技術は本当に素晴らしい。私も高く評価してるんだよ」
「……教授に評価してもらえるのは光栄ですが、俺はもう自分の技術を悪用するつもりはないんで」
キッパリと言い放つ俺に、仲川教授は呆れたような表情で首を横に振る。
「何を言ってるんだ……。君ほどの才能があれば数秒でどのコンピューターシステムにも入り込めるんだよ?ねぇ、元ハッカーのシュガーこと、佐藤蜜生くん。悪いが、君には私の計画に協力してもらう。それにこの状況でノーとは言えないだろう?」
勝ち誇ったような表情の仲川教授が、不適な笑みを浮かべた、その瞬間。
――バンッ。
勢いよく部屋の扉が開いた。
「な、なんだ!?」
焦ったような仲川教授の大きな声が響き渡る。
それと同時に明るい外の光が薄暗い室内に差し込んできた――。



