やっぱりカップルに見えるんだ……。なんか緊張しすぎて変な汗かいてきたかも。
けど、私の手を取り、斜め前を歩く蜜生くんは普段と1ミリも変わりない涼しい顔だ。
そのことに対して、自分だけが意識してるのかなと思うとチクンと胸が痛む。
ん?何でショック受けてるんだろう。
そもそもカモフラージュのために手を繋いでるだけなんだし、意識するほうがおかしいのに……。
先ほど感じた鈍い胸の痛みの理由がわからず、私は1人、小さく首を傾げた。
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「ここが本殿か……。とりあえず、お互い怪しいヤツがいたら報告するようにしよう」
「うん、わかった」
目的の本殿に到着した途端、繋いだ手を離した蜜生くんは、私に真剣な表情で声をかける。
手を離されたことに少し寂しさを感じながらも、ここからはより一層集中していかないといけないと私は、気合を入れ直した。
どこに悪い人が潜んでいるのかわからない。
辺りを警戒しながら、蜜生くんの側を離れないように注意深く観察する。
その時。
ドンッ。
横から歩いてきた40代くらいのおばさんとぶつかってしまい、おばさんの持っていたカバンが落ち、中身がばら撒かれてしまった。
「わ!ごめんなさい。拾います」
慌ててサッと身を屈めて、カバンと落ちてしまったハンカチやポーチなどを拾い、おばさんに手渡した。
「あら、こっちこそごめんなさい。ありがとね」
ニコッと笑顔でカバンを受け取ってくれたおばさんに、内心ホッとする。
そして、去っていくおばさんを見送って、ようやく異変に気がついた。
あ、れ……?蜜生くんがいない?
嘘……いつから!?
ぐるりと一周見回してみるも、彼の姿は見当たらない。
たしかおばさんとぶつかる前に蜜生くんは近くにいた。
つまり、私がカバンを拾って、おばさんに手渡したほんの数十秒で私に全く気づかれずに連れ去ったということになる。
「……ハッ!そうだ、蜜生くんの作戦通りにしないと」
状況を整理しつつ、私は急いでスマホを取り出すと、画面をタップしてとあるアプリを作動させる。
……大丈夫、絶対にうまくいく。
自分自身に言い聞かせながら、私は大きく息をはいたのだった。



