「もうっ、蜜生くんてば、デートなんて言ってからかわないでよね」
「別にからかってないんだけど……」
ぼそっと呟く声は、あまりにも小さくて私の耳には届いてこない。
そして「今、何か言った?」と、私が聞き返すよりも数秒はやく。
「詩桜、今日は頼りにしてる。昨日も詩桜がいたからこそ、安心して大阪観光ができたからさ、今後も俺の専属ボディーガードとしてよろしく頼むよ」
なんてストレートに蜜生くんが言うものだから、思わず気恥ずかしくなって、うつ向いてしまった。
「頼りにしてる」って言われるの結構嬉しいかも……。
なんだか彼に認めてもらえたような気持ちになってちょっと誇らしい。
そんなことを考えながら「うん!まかせてよ」と蜜生くんに笑顔を向けた時、スマホにメッセージがきたことを告げるバイブ音が鳴り響いた。
慌ててスマホを取り出し、確認すると相手は初奈ちゃんだ。
【詩桜、具合大丈夫?私たちはもうすっかり元気になったよ。詩桜たちがお休みの分は、京都のお土産いっぱい買ってくるから楽しみにしてて!ゆっくり休んでね】
そんな優しいメッセージに思わず頬が緩む。
実は、今回私と蜜生くんは体調が悪いからとホテルで休んでいる設定になっている。
……これ以上事情を知らない初奈ちゃん達を危険に巻き込めない。
皆に嘘をついたことは心苦しいが、彼女達の安全を守るためには必要なことだった。
――絶対に今日で決着をつけて、明日の最終日は皆で修学旅行を楽しむんだから!
初奈ちゃんのおかげで、より一層気合が入った私は、ようやく気持ちも落ち着いてくる。
蜜生くんの隣を歩きながら、少しずつ神経を研ぎ澄ませていく私。
そう。昔、私が試合前に対戦相手と対峙する前の気持ちを思い出しながら――。



