私はそっと彼女を拘束していた手を解いた。
もう抵抗する気力もないのか、その場に凍りついたように固まっているお姉さんの姿になんだか少しかわいそうになってしまう。
彼女の話が本当であれば、お姉さん自身も何者かに騙された被害者ということになるのだろう。
でも、やろうとしていたことは誘拐未遂だ。
警察に通報すれば、逮捕されてしまうのだろうか。
これからどうしたらいいの……?
蜜生くんはさっきからお姉さんのスマホを真剣に操作していて、話しかけられる状況じゃないし……。
次にどう動けばいいのかわからず、私が1人で戸惑っていると。
「おーい!2人とも大丈夫か!?」
「山内先生!?」
駆けつけてきたのは、まさかの山内先生だった。
急いで来てくれたのか額には汗がにじんでいる。
「先生どうしてここに?」
「佐藤から連絡があってな。というか、今どういう状況だ??それに、そこにうずくまってる女性は……?」
私と蜜生くん、そして、地面にうずくまっているお姉さんをそれぞれ見つめ、山内先生は首をひねった。
先生に連絡って、蜜生くんいつの間に……。
もしかして、蜜生くんが終始余裕そうにしていたのは山内先生とすでに連絡が取れていたからかもしれないと、今となって理解した。
「彼女、良いように使われて見捨てられた被害者だよ。っち、やっぱりダメか……。このお姉さんに来てたメッセージから何かしらの情報探れるかと思ったけど、捨て垢みたいだ。はい、スマホ返すよ」
「……は?」
とんでもなく割愛された蜜生くんの説明に山内先生の目が点になっている。
お姉さんの横にスマホを置き、蜜生くんは先生に向き直った。
「とりあえず、そこの店に青山達が倒れてるから手分けして運びだそう。先生、車で来てるよね?車で皆を最寄りの病院に連れてこう。ただの睡眠薬だとは思うけど、念の為ね。ちょっとそこのお姉さんも、本当に悪いと思ってるなら手伝って」
冷静に指示を出す彼の言葉に、私はコクリと頷く。
そして、さっきまで青い顔をしていたお姉さんも、蜜生くんの言葉に一瞬、ハッとしたように目を見開いた。
けど、次の瞬間には意を決したように立ち上がり、裏口から駄菓子屋店内に向かって足を進めている。
私もそんなお姉さんの背中を追いかけるように、店の中へと駆け出していたのだった――。



