蜜生くんって、いつもこんな風に狙われてきたのね……。
アメリカで誘拐されかけたという彼の話が、実際の状況に居合わせた今、現実味をおびてくる。
「さて……と、この状況だし、もちろんおとなしくついてきてくれるわよね?佐藤蜜生くん。いえ、シュガーと呼んだほうがいいかしら?」
……シュガー?
お姉さんの口から飛び出した「シュガー」という名前に私は内心首をひねる。
何かの暗号なのか、それとも裏で蜜生くんが名乗ってる名前か何か……?
「名前なんてどうでもいいよ。それより他に仲間は?」
「ふふっ。お子様の相手なんて私一人で十分。わざわざ連れて来るまでもないわ。とりあえずここじゃなんだし裏に車停めてるからついてきてくれる?そっちのお嬢ちゃんも一緒にね」
私も一緒に……。
蜜生くんに視線を向けると、私に向かってコクリと小さく頷いた。
ここは素直に言う事を聞くという合図なのだろう。
たしかにこんな狭い店内じゃ、初奈ちゃんや他の皆を巻き込みかねないし、何より私が動きづらい。
「わかった、ついてってやるからさっさと車に案内しなよ」
蜜生くんの挑発するような口調に、お姉さんはヒクッと口元を引きつらせる。
「あら、結構強気ねぇ……。自分の立場わかってんの?」
イライラしたのか、裏口の扉を乱暴にバンッと開けたお姉さんに、私はハラハラしてしまった。
「わかってるさ。上から言われてるんだろ?俺を傷つけるなって」
「…………」
腕組みをし、黙り込むお姉さんの横を通り過ぎ、先に店の裏口に出た蜜生くんはなぜか余裕さえ感じられた。
蜜生くん、何か作戦でもあるのかな?
苛立つお姉さんを気にしつつ、私も蜜生くんに続いて裏口を出た瞬間。
「たしかにシュガー、あんたは無傷で連れてこいって命令されてるけど……。このお嬢ちゃんは違うわよ?この可愛い顔に傷をつけられたくなかったらおとなしく……って、へ!?きゃあ!?」
背後から私に向かってお姉さんが、サッと手を伸ばしてきたものだから、反射的に身を翻し、関節技をキメていた。
普通の女子中学生。
そう思って、油断していたのだろう。
いとも簡単に技にかかってくれたものだから、こちらも拍子抜けしてしまう。
「なっ、なんなのこのお嬢ちゃん…!?意味わかんないんだけど!?ちょっと、い、いたたた!骨折れる!」



