チラリと蜜生くんの様子を伺うと、おばさんから受け取ったがジュースには手はつけず、バッグの中に入れている。
私もとりあえずそれを真似て、背負っていたリュックに入れようとしたのだが……。
「あら?お嬢ちゃん、飲まへんの?美味しいのに」
おばさんに声をかけられ、ビクッと肩がはねた。
「あ、まだ喉がかわいてなくて……。だから、その……。あとでいただきます」
えへへと、笑ってみたが、きっとぎこちない笑顔になっていたに違いない。
「そんなこと言わへんと、ひと口だけでも飲んだらええよ?実はこれ新商品でな〜。ぜひ、皆の感想聞きたいんよ」
「そう、なんですね……」
なんだか上手くジュースを飲むよう仕向けられているみたいで、私は徐々に戸惑ってしまう。
たしかに蜜生くんの言う通り、少し変かもしれない……。
そう感じ始めた時。
バタッ。
「え、み、美春ちゃん!?どうしたの!?」
突然、ふらっと身体が傾いた美春ちゃんがその場に崩れ落ちるように倒れたのだ。
慌てて彼女に近づくと、スヤスヤと寝息をたてている。
寝てる……?
困惑する私をよそに、気がつくと椅子に座っていた初奈ちゃん、青山くん、篠田くんまでいつの間にか眠ってしまっていた。
「な、なんなの……これ?」
突然の出来事に頭がついていかない私を嘲笑うかのように。
「あらあら、さすが即効性の眠り薬ってだけあるわぁ。もう効いてきたのね」
聞き覚えのない若い女性の声が背後から聞こえてきた。
思わず、声のする方向に視線を向けてみるも、そこに立っているのは駄菓子屋のおばさんだけ。
でも、たしかに私が聞いたのはおばさんの声じゃなく、若い女性の声だった。
蜜生くんを見ると、冷めたような視線でおばさんを見つめている。
「まったく、あなたには参っちゃうわ。私の正体に最初から気づいてたみたいね。で、お友達を守るためにわざとジュースを飲ませたのかしら?でも、いいの?その子はまだ眠ってないけど……」
フッとおばさんがほくそ笑んだ瞬間、彼女は自分の顔に手をかけて、そのままベリッと引き剥がす。
「……ッ!?」
「は〜、疲れた。さすがにおばちゃんのフリはキツいわね。この服も体形変えるためにたくさん着込んでるし重いったらありゃしない」
どうやらおばさんの顔はマスクで作られたニセモノだったようだ。
マスクの下から出てきたのは、20代後半くらいの綺麗な女性だった。綺麗な赤い口紅が塗られた口もとが怪しく弧を描く。
そして、そのままぽいっと床に投げられたマスクを見つめ、私は呆気にとられてしまった。



