『詩桜!さっきは快勝だったな。お父さんも鼻が高いぞ』
満面の笑みで私を抱き上げる父に、私はえへへと照れ笑いを浮かべる。
今日は小学校空手大会、低学年の部の全国大会の日。
県の代表に選ばれた私は、大阪にある府立体育館で行われる全国大会へ父と一緒にやって来ていた。
小学1、2年生が出場する低学年の部では、各大会で勝ち抜いてきた少年少女達が出場する。
小学生になって初めての大会で緊張していた私だったが、あれよあれよという間の快進撃で準決勝まで駒を進めていた。
今は昼休憩ということで、お父さんと体育館近くの商店街へ昼ごはんを食べに来ている。
『よし、この店にしようか』
『うん』
父に促され、入ったのは昔ながらの定食屋さん。
ゲン担ぎだと父は私の代わりに大盛りのカツ丼を食べている。ちなみに私は、お子様用の唐揚げ定食にした。
『次の決勝戦の相手は詩桜よりも背も力もある子だぞ。気を抜かないようにな』
『うん!がんばるね!』
大きなカツ頬張りながら喝を入れる父に、私はより一層身が引き締まる。
よし!午後の試合のためにもしっかり食べないと……!
そう思い、運ばれてきた唐揚げを全て平らげた私は、顔の前で手を合わせた。
『ごちそう様でしたー』
『お!詩桜。よく食べたなぁ。そしたら、そろそろ体育館に戻ろうか』
ちょうど父も食べ終わったタイミングで、私はコクリと頷き、素直に席を立つ。
店をあとにしてすぐ『せっかく大阪に来たし少し商店街見ながら戻ろうか』と言う父の提案で食後の散歩がてら、私達は、商店街の中をゆっくりと歩いていた。
普段見ない商店街の風景に興味津々の私はキョロキョロとあたりを見回してしまう。
すると、何か気になる店があったのか、『お!』と父が小さく声を上げた。
『お父さん、どうしたの?』
『ほら詩桜、あそこ駄菓子屋だぞ』
『わぁ、見たことないお菓子がいっぱい!』
そこには赤に青、ピンクに黄色等、色とりどりの可愛い商品が並べられていて、見てるだけで楽しい気持ちになる。
いつも行く近所のスーパーではあまり見かけない小袋のお菓子やガム、チョコの数々に私の視線が釘付けになっていた時。
『父さんが小さい頃は、うちの家の近くもあってな〜。よく母さんにお菓子を買ってもらったんだよ』
懐かしそうに目を細めた父が、おもむろにそう呟いた。



