「あ!詩桜だ〜。おはよー!」
中学までの通学路を歩いていると、背後から私の名前を呼ぶ明るい声が聞こえてくる。
元気に手を振る彼女の名前は、八神初奈ちゃん。私の中学からの友達だ。
身長160センチのスラッとした体型で、切れ長の瞳に綺麗な黒髪をなびかせた初奈ちゃんは、中学生とは思えないくらい大人びて見える。
ちなみに初奈ちゃんを含めた中学からの友達には、私が武道ができることは秘密。
今のところ、ごく普通の女子中学生として学校生活を送っていた。
「もうっ。詩桜ったら今日も超絶可愛いわね〜。大丈夫?変なヤツに絡まれたりしてない??」
「あはは、初奈ちゃんは心配しすぎたよ。私に絡んでくる人なんかいないって〜」
まぁ、絡まれたとしても、素人だったら返り討ちにするくらいわけないしね……。
心の中でそんなことを呟き、苦笑いを浮かべる私に向かって初奈ちゃんは「詩桜は甘いよ!」と一喝する。
「このご時世、誘拐だって頻繁におきてるし、特に詩桜みたいな可愛い子はその対象になりやすいんだから気をつけないと…!」
「あ、ありがとう……。でも、それを言うなら初奈ちゃんもだよ?」
「あはは。私こそ大丈夫だよ!狙ってくるヤツなんかそうそういないって」
ケラケラ笑い飛ばす彼女だが、実は去年の今頃、知らない人に後をつけられていたことがある。
まぁ、初奈ちゃんは、全然気づいてなかったけどね……。
その時はいち早く怪しい視線に気づいた私が、彼女と別れたあとでその男を絞め上げ……じゃなった、穏便に説得して事なきを得たのだが……。
改めて当時のことを思い起こし、やれやれと私が肩を竦めた時だった。
「――見つけた」
確かにそんな声が聞こえた気がして、私は思わず立ち止まる。
辺りを見回してみるも、歩道には私と初奈ちゃん以外の人影は見えない。
気の所為、かな……?
不思議に思って、首を傾げる私のすぐ側を黒塗りの車が1台、ゆっくりと通り過ぎていったことに、この時の私は気づいていなかった。



