「ごめんね。嫌なこと思い出させちゃったよね……」
「別に、詩桜が謝ることじゃないよ。ま、あの事件があったおかげで近くの人間でも常に疑えって良い教訓になったしね」
一瞬、私の言葉に驚いたような表情を浮かべた蜜生くんだったが、次の瞬間にはフッと大人びた笑顔を私に向ける。
まるで何も気にしていないとでも言うようなその笑顔。
でも、なんだか私には蜜生くんが少し無理をしているように見えて、チクンと胸が痛んだ。
「とにかく校内でも気が抜けないってことだよね!はい、コーヒーできたよ。どうぞ」
コーヒーの入ったマグカップを差し出すと、密生くんは嬉しそうに「ありがとう」と受け取る。
その後、私は近くのソファに座り、先ほどコーヒーと一緒に作った自分用のカフェラテを飲んでいると。
――カチャッ。
秘密部屋のドアが開き、担任の山内先生が顔を出した。
え、山内先生!?なんでここに……?
「お、佐藤に遠城寺!お疲れ。頑張ってるか?」
「…っ!?」
予想外の人物の登場に、思わず飲んでいたカフェラテを吹き出しそうになった私は、目をパチパチさせて先生を見つめる。
「……先生、放課後は邪魔だからなるべく顔を出さないでほしいって俺言いましたよね?」
「あいかわらず、可愛げないやつだな……。俺の大学の後輩だからってそういう態度はどうかと思うぞ」
鬱陶しそうな口調の密生くんと、やれやれと呆れたように肩を落とす山内先生。
教師と生徒と言うには、あまりにも親しげな二人のやりとりに私は目を丸くする。
それにさっき先生は蜜生くんのこと「大学の後輩」って言ってなかった?
戸惑う私の様子に気づいてくれた山内先生が、
「佐藤、お前遠城寺にちゃんと説明してるのか?めちゃくちゃ戸惑ってるじゃねーか」
と、密生くんに問いかけた。
「言いましたよ。俺の専属お世話係に詩桜を推薦したのは山内先生だって」
「……あのなぁ、佐藤、世の中みんな、お前みたいに天才ばかりじゃねえんだぞ?遠城寺だって頭は良いけど、そんだけの説明でわかるわけないだろ。全く……。本当に言葉足らずだなぁ。すまんな、遠城寺。代わりに俺から説明させてくれ」
「は、はい。お願いします」
申し訳なさそうに謝る山内先生の言葉に頷いた私は、その後先生からの話しを聞いて驚愕の事実を知ることとなる――。



