蜜生くんって、俳優、いや、詐欺師とかもできそう……。
そう思ってしまうくらい素晴らしい演技力だった。
「帰国子女だもんね〜」
「日本の学校に通うのも初めてみたいだし、色々不安なこと多いよね。私たちで協力できることがあったら言ってね」
と、心配そうな様子で蜜生くんを見つめる皆は、すっかり彼の嘘にだまされている。
しかし、そんな中。
「帰国子女のわりに、日本語がすっごい上手なのね」
少し遠巻きに私達の様子を見ていた初奈ちゃんがおもむろに口を開いた。
初奈ちゃん?
微笑んではいるものの、腕組みをし、いつもより声が低い初奈ちゃんは苛立った様子で佐藤くんを見据えている。
「えっと……」
「八神初奈よ。詩桜の友達。よろしくね、佐藤くん」
「八神さんね。こちらこそよろしく。ちなみに俺が日本語ができるのは、アメリカのスクールで日本語専攻してたのと、母が日本人だからね。家では日本語もわりと飛び交ってたし」
蜜生くんもやんわりとした口調で、初奈ちゃんの質問に答えていた。
「ふーん。日本語の件はわかったわ。でも、佐藤くんのお世話係を詩桜がやる必要はないわよね?ほら、他にやりたい子はいっぱいいそうだし」
チラッと視線をそらした初奈ちゃんは、周りを一瞥する。煽るような言い方をする彼女に、私はアワアワと心の中で慌ててしまった。
「八神さん、さっきも言ったけど、詩桜のことを推薦してくれたのは山内先生なんだ。すごくしっかりしてるから安心だって。それは俺も同感だな」
「それはそうかもしれないけど……」
「あ!初奈ちゃん、あのね!私も実は山内先生に蜜生くんのこと聞いて。ほ、ほら、式辞の代理を引き受けた時に!それで、こっちに帰ってきたばかりで知り合いもあんまりいないから助けてやってくれって頼まれたの。私もそういう理由ならって承諾したんだ」
初奈ちゃんの言葉を遮って、早口でそう言ってのけた私に彼女は驚いたように目を見張る。
しばらくの沈黙のあと。
「詩桜がいいならいいんだけど……」
まだ何か言いたそうにしていた初奈ちゃんだったが、しぶしぶ納得したように身を引いてくれた。
その瞬間。
――キーンコーンカーンコーン。
タイミングよく、始業のチャイムが鳴り響いた。



