急に名前呼びするし、それに、私を守るってどういうこと……??
「……ギブアンドテイク」
急に佐藤くんが私の顔の前に指を立てて、クスリと小さくほくそ笑んだ。
「え?」
彼の口から飛び出した『ギブアンドテイク』という言葉に思わずキョトンとしてしまう。
「詩桜には俺のボディーガード引き受けてもらうだろ?その代わり詩桜が武道をやってたことは、君自身が周りに公表するまで俺は、絶対に秘密にする。ね、お互いWin-Winだ」
そういうこと、私の秘密を守るって意味ね。
「わかった、その条件で大丈夫だよ」
「じゃあ、契約成立ってことで。あと、いくつか提案ね。ボディーガードってわりと近くにいないといけないこと多いと思うんだ。そんな俺らが他人行儀じゃ、怪しまれるだろ?だからさ、詩桜には俺の彼女って立ち位置になってもらいたいんだ。それがいちばん自然だと思わない?」
「うん、そうだね……って、ん!?」
彼女……!?
さも当然のように言うものだからつい流れで頷いてしまったけど、改めて言われたことを頭の中で復唱して目を見張る。
「いやいや、彼女はちょっと……」
佐藤くんみたいにモテる人の彼女なんて、彼のファンに刺されかねない。たとえそれがニセモノの彼女だとしても。
ぶんぶんと必死に首を横に振り、拒否する私に向かって。
「でも、ボディーガードってほぼ俺といっしょに行動しないと行けないと思うけどなぁ。周りになんて説明する?」
「そ、れは……」
予想外に正論で詰められ、私は思わずうっと押し黙ってしまった。
「てか、そこまで嫌がられるとさすがに俺も傷つくなぁ」
そんなことを言いながら、全然傷ついた様子のない佐藤くんに私はスンと冷ややかな視線を送る。
「ま、今はいいか。じゃあ、彼女とまではいかなくても、とりあえず名前呼びくらいはしてくれないと。明日からボディーガードしてもらわないとなんだから仲良くいこうよ。ほら、詩桜、俺のこと"蜜生"って呼んでよ」
「へっ!?」
瞬間、カッと頬が赤くなる。
慣れない状況につい過剰反応してしまう自分が悔しい。
私の反応を楽しむかのように佐藤くんの口角があがった。
なんだか今のところ、彼の手のひらでコロコロと転がされているような気がして反抗心がわいてきた私は、
「じゃあ、蜜生"くん"で!」
わざと「くん」を強調して言葉を紡ぐ。
「……ま、今はそれでいいか」
「え?」
「いや、こっちの話。じゃあ今日からよろしくね。詩桜、期待してるよ」
やんわりとはぐらかされ、私はパチパチと目を瞬かせた。
なんかつかめない人だな……。
それが、私が感じた佐藤蜜生への第一印象。
そして、この日から私と佐藤くん……いや、蜜生くんとの不思議な契約関係が幕を開けた――。



