しばらく視線で、戦い合う3人に私はオロオロと慌てふためくことしかできなかった。
緊張感から、口の中がカラカラになってきて思わずゴクリと唾をのむ。
この辺で止めないと大変なことになる予感がして「3人とも落ち着いて」と再度声をかけようとした瞬間。
「ほら、そこの3人!見つめ合ってないで手を動かしてくれよー。2組の香坂は、こっちで垂れ幕の整理を手伝ってくれるか〜?」
山内先生が私達の不安な気配を察知してくれたのか、壇上の上から綺羅莉ちゃんを呼ぶ声が聞こえてきた。
……!!山内先生ナイス!
心の中で私は先生に対してグッと親指を立てる。
「……ふん、わかりました」
綺羅莉ちゃんは、不服そうにしながらも先生からの頼みを断れず、そそくさとその場をあとにする。
とりあえず戦闘は避けられたみたいで、ひと安心だ。
「ねぇ、香坂さんって、あんな嫌味言う子だったの?私、同じクラスになったことないからよくわかんないけど」
美春ちゃんが去っていく綺羅莉ちゃんの背中を見つめ、初奈ちゃんに問いかけている。
「前からあんな感じよ。本当謎なんだけどさぁ、去年、同じクラスになってからなぜか詩桜にだけつっかかってくるんだよね〜」
初奈ちゃんはやれやれというように、肩をすくめた。
同じクラスにになってすぐは綺羅莉ちゃんもあんな風に嫌味を言ってくる感じじゃなかった……気はする。
きっと、何かキッカケがあったはずなのだ。
でも、私には全然心当たりはなくて……。
綺羅莉ちゃんとも、いつか仲良くなれればいいな。
心の中でそんなことを考えながら、私は、椅子の片付けを再開したのだった。
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お、落ち着いて。詩桜……。
いざという時は、得意の背負投げで1本!って、幽霊に背負投げって有効なのかな……?
1人でそんな葛藤しながら、私は現在本校舎から旧校舎へと続く渡り廊下を歩いている。
ちなみに、どうして私が1人で旧校舎へ向かっているのかというと…。
理由は、10分ほど前に遡る――。
体育館の片付けがほぼ終了し、残すは備品をもとあった場所に戻しに行くだけとなった。
『皆、お疲れ様。そしたら、最後にこの垂れ幕を誰か持って行ってくれるやついないか〜?』
にこやかな山内先生がぐるりと辺りを見回すも、面倒なのか進んでやろうという生徒は出てこない。
当てられないようにか、先生から視線をそらす人もいるくらいだ。
まぁ、普通に考えたら面倒だし、率先してやりたい人はいないよね……。よし!ここは、私がひと肌脱いでさっき助けられた山内先生に恩を返しますか!
そう思い、満面の笑みで「私、行きます!」と軽い気持ちで立候補したのが運の尽きだった。
『おぉ。遠城寺!助かるよ〜。じゃ、この備品を"旧校舎"の倉庫には片付けてきてくれるか?』
ピタリ。
先生の言葉に一瞬、思考が停止する。
……ん?旧校舎?
予想外の行き先に、次の瞬間、たらりと冷や汗が私の頬をつたった――。



