「ついにこの日が来たのね。長かったわ。」
ヴァリニア王国の王妃エレオノールは
満面の笑みで独り言を言った。
彼女が手にしているのは
夫である国王エドリックの署名が入った
離婚同意書。
あとちょうど1ヶ月で、
エレオノールはヴァリニア王妃から
元のアルドヴァール大公女に戻るのだ。

一般的に、
離婚となると精神的に辛いものだが
エレオノールの場合は違った。
なぜなら夫とは白い結婚だから。
自分たちの結婚は、
各国の覇権争いの中で仕組まれた政略結婚だった。
とは言っても、
エレオノールとて、
最初から全てを割り切って結婚したわけではない。
どうせ結婚するのだから
夫となる人とは仲良くなりたいと思っていたし、
初対面のエドリックが
想像よりもずっと美丈夫だったので
それ相応に心がときめいたのも事実だ。

ところが、
一方のエドリックはエレオノールに無関心で、
公務を行うビジネスパートナーぐらいにしか
思っていないようだった。
そんな夫の態度とともに、
さらにエレオノールの心に追い打ちをかけたのが
この国の独特の制度で
王の愛人たちが住まうハーレムがあることだった。