酒場の外から、建物目掛けてハルが叫ぶ。
眠いなりにハルが呼んでる。
…それだけは分かった。
「…は、る。」
その声の方へ。
とにかく行きたい。
何も考えず、私は窓に手を掛ける。
窓からその姿を捉える。
捉えたので。
「ハルっ…!」
私は窓からその愛しい姿に飛び込む。
ふわりと風が吹いて、私はハルの中に吸い込まれるように堕ちるだけ。
「っただ、いま。」
「ああ。おかえり、リン。」
ハルが戦から帰って来た時。
決まって私は“ただいま”を伝える。
それは、外に出られなかった頃の私が。
自分ばかり“おかえり”を言うのが嫌だと言ったことが発端で。
それならばハルは、自分の腕の中に私が帰って来た時に“ただいま”を言って欲しいと私に頼んだ。
「辛かったろ。」
「っ…。」
「ん?」
「だい、じょうぶ。」
しっかり私を抱き締めていたハルの腕が緩む。
「おいおい、ふざけんなよ。」
「…?」
「お前の弱音も受けきれねえ程度の男か俺は。」
大丈夫だと言うと、ふざけるなと言われる。
「俺の価値を、よりにもよってお前が下げてくれるなよ。」
そう言ってまた抱き締め直したハル。
その腕の中で、私は小さく自発的に息を吸った。
…思い知らされる。
私は結局、この場所でしか生きられない。
ここが唯一、呼吸が出来る場所だと知っているから。
「苦しかった…けど、治った。」
「…なら良い。」
私もハルを抱き締める腕に力を込める。
「お前は何でそんなに可愛いんだよ。」
「…うん。」
「うんって言うのかよ。」
「…うん。」
それしか今は喋れないんだよ。
嬉しくて嬉しくて。安心しきった私は、下手に言葉を紡いでしまえば涙が溢れ出しそうで。

