秋が深まる頃には、新しい部署も順調に仕事が増え、私と久瀬くんは年が明けたら各国の支社を視察して回ることが決まった。
それが終われば一段落ということで、春に結婚式を挙げようと話している。
12月になり、由香里ちゃんと原口くんの結婚式の日がやって来た。
私と久瀬くん、そして部署のメンバーも揃って参列する。
ウェディングドレス姿の由香里ちゃんはうっとりするほど綺麗で、幸せのオーラでキラキラと輝いて見えた。
バージンロードを歩く由香里ちゃんに、ありったけの祝福の気持ちを込めて拍手を送る。
と、ふと私はあることに気がついた。
(バージンロードって、父親と歩くのよね?それって、バレちゃうじゃない!私が社長の娘ってことが皆さんに。どうしよう)
由香里ちゃんと原口くんの挙式を見届けたあと、披露宴会場に向かいながら私は久瀬くんに相談してみた。
すると久瀬くんはキョトンとしてから、おかしそうに笑い出す。
「どうして笑うの?」
「だってあやめ、まだ気づいてなかったんだって思って」
「何を?」
久瀬くんは、笑いを堪えながら私を見る。
「あやめが社長令嬢だってこと、社員はみんな知ってるよ」
……は?と、今度は私がキョトンとした。
「え、待って。最初に久瀬くんとお見合いした時にバレてしまって、久瀬くんが原口くんに教えたのよね?それから由香里ちゃんに伝わって……。それ以外に誰に伝えたの?」
「俺は誰にも伝えてないよ。だけどみんな知ってた。あやめは醸し出す雰囲気がお嬢様だったから。あ、東だけは気づいてなかったけどね」
「そう、なの、ね……」
イマイチ事態が呑み込めずにポカンとしてしまう。
「みーんな知ってるよ。あやめが社員令嬢でありながら、そんな素振りもなく誰よりも仕事熱心なこと。誰に対しても笑顔で優しいこと。真っ直ぐ芯の通った考え方で、自分の信念を持ってること。まあ筋金入りのガンコ者で、そのくせ泣き虫なのを知ってるのは俺だけかな?」
そう言うと久瀬くんは、からかうように私の顔を覗き込む。
「あ、そうやってちょっと拗ねるのもね。あとは、俺のことを大好き!って無邪気に笑うことと、夜寝る時にムギューッて抱きついてきたり……」
「ちょっ、久瀬くん!」
誰かに聞かれなかったかと、私は慌ててキョロキョロする。
「俺だけが知ってるあやめ、まだまだたくさんあるよ」
「……それを言ったら私だって。私しか知らないかっこいい久瀬くん、いっぱいあるもん」
「まだまだ見せてくれる?色んなあやめを、俺だけに」
「うん。久瀬くんのかっこ良さを独り占めさせてくれたらね」
「もちろん」
久瀬くんは壁際の大きなカーテンの影で、グッと私を抱き寄せた。
「どんなあやめも愛してる」
「私も。ずっとあなただけが大好きです」
二人で微笑み合うと、久瀬くんは私の頬に手を添えて優しく甘いキスをくれる。
確かな愛情と幸せを感じ、じんわりと胸が温かくなった。
どんな時も信念を持って歩んで来た私。
これからは久瀬くんと力を合わせて、必ず大きな仕事をやり遂げる。
そして一生久瀬くんを愛し、久瀬くんと共に幸せになる。
ガンコな私は必ずこの想いを貫き通す。
「久瀬くん」
「ん?なに?」
「私、ガンコ者だから。必ずあなたを幸せにしてみせるからね」
久瀬くんは一瞬驚いてからクスッと笑う。
「あなたがガンコなのは充分存じ上げてますよ、あやめお嬢様。それと覚えておいてください。俺もあなたに負けず劣らずガンコ者なんです」
「知ってるわ。だから私を捕まえてくれたんだもの」
二人でもう一度微笑み合い、どちらからともなくキスをする。
「幸せになろう、あやめ」
「はい……司くん」
不意をつかれたように固まる久瀬くんにクスッと笑い、私は背伸びしてチュッと頬にキスをした。
(完)
それが終われば一段落ということで、春に結婚式を挙げようと話している。
12月になり、由香里ちゃんと原口くんの結婚式の日がやって来た。
私と久瀬くん、そして部署のメンバーも揃って参列する。
ウェディングドレス姿の由香里ちゃんはうっとりするほど綺麗で、幸せのオーラでキラキラと輝いて見えた。
バージンロードを歩く由香里ちゃんに、ありったけの祝福の気持ちを込めて拍手を送る。
と、ふと私はあることに気がついた。
(バージンロードって、父親と歩くのよね?それって、バレちゃうじゃない!私が社長の娘ってことが皆さんに。どうしよう)
由香里ちゃんと原口くんの挙式を見届けたあと、披露宴会場に向かいながら私は久瀬くんに相談してみた。
すると久瀬くんはキョトンとしてから、おかしそうに笑い出す。
「どうして笑うの?」
「だってあやめ、まだ気づいてなかったんだって思って」
「何を?」
久瀬くんは、笑いを堪えながら私を見る。
「あやめが社長令嬢だってこと、社員はみんな知ってるよ」
……は?と、今度は私がキョトンとした。
「え、待って。最初に久瀬くんとお見合いした時にバレてしまって、久瀬くんが原口くんに教えたのよね?それから由香里ちゃんに伝わって……。それ以外に誰に伝えたの?」
「俺は誰にも伝えてないよ。だけどみんな知ってた。あやめは醸し出す雰囲気がお嬢様だったから。あ、東だけは気づいてなかったけどね」
「そう、なの、ね……」
イマイチ事態が呑み込めずにポカンとしてしまう。
「みーんな知ってるよ。あやめが社員令嬢でありながら、そんな素振りもなく誰よりも仕事熱心なこと。誰に対しても笑顔で優しいこと。真っ直ぐ芯の通った考え方で、自分の信念を持ってること。まあ筋金入りのガンコ者で、そのくせ泣き虫なのを知ってるのは俺だけかな?」
そう言うと久瀬くんは、からかうように私の顔を覗き込む。
「あ、そうやってちょっと拗ねるのもね。あとは、俺のことを大好き!って無邪気に笑うことと、夜寝る時にムギューッて抱きついてきたり……」
「ちょっ、久瀬くん!」
誰かに聞かれなかったかと、私は慌ててキョロキョロする。
「俺だけが知ってるあやめ、まだまだたくさんあるよ」
「……それを言ったら私だって。私しか知らないかっこいい久瀬くん、いっぱいあるもん」
「まだまだ見せてくれる?色んなあやめを、俺だけに」
「うん。久瀬くんのかっこ良さを独り占めさせてくれたらね」
「もちろん」
久瀬くんは壁際の大きなカーテンの影で、グッと私を抱き寄せた。
「どんなあやめも愛してる」
「私も。ずっとあなただけが大好きです」
二人で微笑み合うと、久瀬くんは私の頬に手を添えて優しく甘いキスをくれる。
確かな愛情と幸せを感じ、じんわりと胸が温かくなった。
どんな時も信念を持って歩んで来た私。
これからは久瀬くんと力を合わせて、必ず大きな仕事をやり遂げる。
そして一生久瀬くんを愛し、久瀬くんと共に幸せになる。
ガンコな私は必ずこの想いを貫き通す。
「久瀬くん」
「ん?なに?」
「私、ガンコ者だから。必ずあなたを幸せにしてみせるからね」
久瀬くんは一瞬驚いてからクスッと笑う。
「あなたがガンコなのは充分存じ上げてますよ、あやめお嬢様。それと覚えておいてください。俺もあなたに負けず劣らずガンコ者なんです」
「知ってるわ。だから私を捕まえてくれたんだもの」
二人でもう一度微笑み合い、どちらからともなくキスをする。
「幸せになろう、あやめ」
「はい……司くん」
不意をつかれたように固まる久瀬くんにクスッと笑い、私は背伸びしてチュッと頬にキスをした。
(完)