あやめお嬢様はガンコ者

カフェでランチをのんびりと楽しみ、久瀬くんは私を自宅まで送り届けてくれる。

「じゃあ、あやめ。夕方に車で迎えに来るからね」
「うん!待ってる」

手を振って久瀬くんを見送ると、私は早速自分の部屋で荷物をまとめ始めた。
これからも部屋は残しておいてもらえるから、当面の身の回りの物だけをスーツケースに詰めると、ダイニングルームに下りて母やさちさんとお茶を飲む。
無事に婚姻届を提出したと報告すると、二人ともしみじみと喜んでくれた。

「あやめ、好きな人と結婚出来て本当に良かったわね。ガンコなあなたが頑なに会社の為に政略結婚しようとするのを、私達はずっと心配してたのよ」
「そうですよ、あやめお嬢様。さちはお嬢様が幸せになるのだけを願っておりました。政略結婚でその後のあやめお嬢様の人生がどうなってしまうのかと、それはもう心配で……。久瀬様のような方と結ばれて、本当に安心いたしました」

ありがとう、と私は二人に微笑む。

「久瀬くんのおかげで、私は変わることが出来たの。頭の固い私に、久瀬くんは何度も諦めずに気持ちを伝えてくれて。久瀬くんに幸せを教えてもらったの。これからは私が久瀬くんを幸せにしたい」
「あらあら、ご馳走様」
「えっ、お母様。そんなつもりは……」
「いいのよ。こんなあやめを見るのが私も嬉しいから」

ふふっと笑う母に、私も微笑み返す。

「あやめお嬢様、いつでもこちらに遊びにいらしてくださいね。お子様がお生まれになったら、さちはもう四六時中お手伝いいたしますわ」
「やだ!さちさん。いくら何でも気が早すぎるわよ」
「可愛いでしょうねえ。あやめお嬢様と久瀬様のお子様ですよ?それはもう美形間違いなし」
「さちさん?ちょっと、聞いてる?」

三人で顔を見合わせて笑う。
離れていても、私はいつでも家族に見守られている。
そう思うと、お嫁に行く寂しさは感じなかった。