「あやめさん、どうして毎日一人で残業を?何か大きな案件を抱えてるんですか?」
タクシーの中で久瀬くんに問われた私は、しどろもどろになる。
「えっと、そういう訳ではないのですが。一人で作業するのが好きなんです。落ち着いて出来るので」
「それにしても、どうしてこんなに遅くまで?ご両親も心配されます。しかも俺は同じ部長という立場なのに、あやめさんだけに残業をさせていた。これから社長にお話ししてそのことを謝罪します」
そんな!と私は慌てて否定する。
「久瀬くんは関係ありません!私が勝手にやったことですから」
「だけど、あやめさん。もし東が一人でこっそり残業していたら?あやめさんは上司として責任を感じるでしょう。それと同じです。知らなかったから無関係、では済まされません。部長とはそういうものです」
「そうですけど……。とにかく今回のことは、久瀬くんには微塵も責任はありません」
「ですが、社長には謝罪します。大切なご令嬢をこんなに遅くまで残業させていたなんて、俺の監督不行届も一因ですから」
私はむーっとふくれっ面になる。
「ご令嬢だなんて、関係ないでしょう?そんなに言うなら、久瀬くんを父には会わせません!」
「はい!?何を言い出すんですか、このガンコ者のお嬢様は」
「ですから!私をお嬢様扱いしないでください!怒りますよ?」
「もう怒ってるじゃないですか」
「怒ってません!」
はあはあと肩で息を切らすと、久瀬くんは右手で口元を覆い、小さく笑う。
「ほんとにガンコ者……。可愛い」
私から視線をそらしてポツリと呟いた久瀬くんに、私は一気に顔を赤らめた。
「な、な、何を……」
「あやめさん、覚えてないんですか?俺が告白したこと。忘れたのなら改めて言います。俺はあなたのことが……」
「ちょっと待って!」
私は運転手さんを気にして久瀬くんの言葉を遮った。
「あの、タクシーの中ですから」
「じゃあ、降りたら言いますね」
「いえ、あの、結構です!覚えてますから」
「それなら良かった」
そう言ってクスッと笑う久瀬くんに、私はまたしても顔が赤くなるのを感じていた。
自宅に着き、私がタクシーを降りると、久瀬くんも降りてくる。
「あやめさん、ひと言社長にご挨拶出来ますか?」
「本当に大丈夫ですから。それに時間も遅いですし」
「ああ、確かにそうですね。では今日のところはこれで。おやすみなさい、あやめさん」
「おやすみなさい」
ようやく納得してくれたと、私はホッとする。
するとタクシーに戻りかけた久瀬くんが振り返った。
「あやめさん、明日は残業しないでくださいね」
「分かりました、もうしません」
「良かった。その代わり俺と食事に行きましょう」
「……はい?」
「それでは、また明日」
呆然としている間に、久瀬くんを乗せたタクシーは遠ざかっていった。
タクシーの中で久瀬くんに問われた私は、しどろもどろになる。
「えっと、そういう訳ではないのですが。一人で作業するのが好きなんです。落ち着いて出来るので」
「それにしても、どうしてこんなに遅くまで?ご両親も心配されます。しかも俺は同じ部長という立場なのに、あやめさんだけに残業をさせていた。これから社長にお話ししてそのことを謝罪します」
そんな!と私は慌てて否定する。
「久瀬くんは関係ありません!私が勝手にやったことですから」
「だけど、あやめさん。もし東が一人でこっそり残業していたら?あやめさんは上司として責任を感じるでしょう。それと同じです。知らなかったから無関係、では済まされません。部長とはそういうものです」
「そうですけど……。とにかく今回のことは、久瀬くんには微塵も責任はありません」
「ですが、社長には謝罪します。大切なご令嬢をこんなに遅くまで残業させていたなんて、俺の監督不行届も一因ですから」
私はむーっとふくれっ面になる。
「ご令嬢だなんて、関係ないでしょう?そんなに言うなら、久瀬くんを父には会わせません!」
「はい!?何を言い出すんですか、このガンコ者のお嬢様は」
「ですから!私をお嬢様扱いしないでください!怒りますよ?」
「もう怒ってるじゃないですか」
「怒ってません!」
はあはあと肩で息を切らすと、久瀬くんは右手で口元を覆い、小さく笑う。
「ほんとにガンコ者……。可愛い」
私から視線をそらしてポツリと呟いた久瀬くんに、私は一気に顔を赤らめた。
「な、な、何を……」
「あやめさん、覚えてないんですか?俺が告白したこと。忘れたのなら改めて言います。俺はあなたのことが……」
「ちょっと待って!」
私は運転手さんを気にして久瀬くんの言葉を遮った。
「あの、タクシーの中ですから」
「じゃあ、降りたら言いますね」
「いえ、あの、結構です!覚えてますから」
「それなら良かった」
そう言ってクスッと笑う久瀬くんに、私はまたしても顔が赤くなるのを感じていた。
自宅に着き、私がタクシーを降りると、久瀬くんも降りてくる。
「あやめさん、ひと言社長にご挨拶出来ますか?」
「本当に大丈夫ですから。それに時間も遅いですし」
「ああ、確かにそうですね。では今日のところはこれで。おやすみなさい、あやめさん」
「おやすみなさい」
ようやく納得してくれたと、私はホッとする。
するとタクシーに戻りかけた久瀬くんが振り返った。
「あやめさん、明日は残業しないでくださいね」
「分かりました、もうしません」
「良かった。その代わり俺と食事に行きましょう」
「……はい?」
「それでは、また明日」
呆然としている間に、久瀬くんを乗せたタクシーは遠ざかっていった。



