「あやめさん、今度会社に着て来てくださいね!」
ランチを食べようとカフェに入り、由香里ちゃんはご機嫌で笑いかけてくる。
「えー、会社には無理よ」
「じゃあ、デートの時に」
「残念ながら、その予定はないのよ」
「そうなんですか?あやめさん、恋愛しないんですか?」
「うん。いずれお見合いで結婚しようと思ってるから」
そう言うと由香里ちゃんは、あからさまにしょんぼりとうつむいた。
「由香里ちゃん?どうかした?」
「あの、あやめさん。実は私、原口さんとつき合うことになったんです」
「えー、本当!?おめでとう!」
突然のことに驚きつつ、良かったなーと頬を緩める。
「お似合いだもん、原口くんと由香里ちゃん。お幸せにね」
「ありがとうございます。それで、あやめさん」
「どうしたの?元気ないね」
「はい。実は私、原口さんから聞いたんです。あやめさんが社長令嬢だってこと」
え!と私は言葉をなくす。
原口くんが知っていたってこと?
ああ、久瀬くんが話したってことなのね。
「ごめんなさい、聞いてはいけなかったですか?」
そっと視線を上げて尋ねる由香里ちゃんに、私は明るく笑いかけた。
「ううん、構わないよ。でもこれまでと変わりなく、時々私とこうやってデートしてくれたら嬉しいな」
「それはもちろんです!でも、あやめさん。私とではなくて、好きな人とデートは?」
「ああ、そうね。お見合いの話が進んだらいずれその人とね。でも今は仕事が大事だから当分先かな?」
すると由香里ちゃんは、そうじゃなくて!と身を乗り出してきた。
「あやめさん、お見合い結婚するって、もしかして会社の為の政略結婚ですか?」
「まあ、そうなるかな。そもそも私、恋愛とか出来ないから自然とお見合いすることになると思うしね」
「そんなことない!私、あやめさんには、ちゃんと好きな人と結ばれてほしいんです」
「ど、どうしたの?由香里ちゃん、そんな急に……」
由香里ちゃんは目を潤ませながら必死に口を開く。
「私はあやめさんのことをよく知っています。仕事熱心で誰にでも優しくて、私なんかにも気さくに話しかけてくれます。あやめさんが社長令嬢だって知った時、本当に驚きました。全然偉そうな素振りもないし謙虚だし、ひけらかすようなところもないから、私、全く気づかなくて。そんなあやめさんをますます尊敬しました。私はあやめさんに、誰よりも幸せになってほしいです。政略結婚なんて、ダメです!」
「由香里ちゃん……、ありがとう。でもね、こうすることが私の生き方なの。会社の役に立つなら喜んで……」
「役になんか立ちません!」
由香里ちゃんの強い口調に、私は驚いて言葉を止める。
いつもの由香里ちゃんからは想像出来なかった。
「あやめさんが会社の為を思って結婚しても、私はちっとも嬉しくありません!原口さんだって、久瀬くんだって、きっと社長だってそうです」
「まさか、そんな……」
「絶対にそうです!私達みんな、あやめさんが大好きなんです。あやめさんが幸せになってくれなきゃ嫌です!大体あやめさん、会社の為にって言いますけど、私達はあやめさんが政略結婚しなくてもちゃんと私達の力で会社を大きくしてみせますからね!見くびってもらっちゃ困ります!」
私はハッと息を呑む。
確かにそうだ。
私が政略結婚して他の企業の力を借りなければいけないほど、ふたば製薬の社員はヤワなの?
いいえ、違う。
みんなが一人一人責任感を持って仕事している。
まだ26歳の由香里ちゃんも、久瀬くんも。
これからだって、どんどん成長を遂げるはず。
そう信じられる仲間ばかりだ。
私が政略結婚で助けようなんて、単なる思い上がりにすぎなかった。
「そうよね。考えてみれば失礼な話よね」
ポツリと呟くと、由香里ちゃんは大きく頷く。
「まったくですよ。失礼しちゃう!私、こう見えてやれば出来る子なんですよ?」
「ふふっ、うん。よく知ってる」
「でしょ!?だからあやめさん、会社の為に政略結婚なんて、もう二度と考えないでくださいね」
「え、でも。恋愛は出来そうにないから、やっぱりお見合いになるかな?それか生涯独身」
すると、はあー?!と由香里ちゃんは呆れた声を出す。
「もう、あやめさん仕事はバリバリなのに、女子力はダメダメ!いいですか?ちゃんと恋してください!これは私からの課題ですよ。期限は、うーんと、夏が終わるまでに」
「ええー!?そんなの無理!」
「あら?やる前に音を上げるなんて、私の知るあやめさんならしませんよね?」
「うぐっ、だって恋愛なんてマニュアルもないし、やり方が分からないんだもん」
やれやれと由香里ちゃんは両手を広げる。
「よし!それならあやめさん。ランチ食べたら別のお店も行きますよ。オフィススタイルの服もトータルコーディネートしちゃいます!いいですね?」
由香里ちゃんの勢いに負けて、私ははいと頷いた。
ランチを食べようとカフェに入り、由香里ちゃんはご機嫌で笑いかけてくる。
「えー、会社には無理よ」
「じゃあ、デートの時に」
「残念ながら、その予定はないのよ」
「そうなんですか?あやめさん、恋愛しないんですか?」
「うん。いずれお見合いで結婚しようと思ってるから」
そう言うと由香里ちゃんは、あからさまにしょんぼりとうつむいた。
「由香里ちゃん?どうかした?」
「あの、あやめさん。実は私、原口さんとつき合うことになったんです」
「えー、本当!?おめでとう!」
突然のことに驚きつつ、良かったなーと頬を緩める。
「お似合いだもん、原口くんと由香里ちゃん。お幸せにね」
「ありがとうございます。それで、あやめさん」
「どうしたの?元気ないね」
「はい。実は私、原口さんから聞いたんです。あやめさんが社長令嬢だってこと」
え!と私は言葉をなくす。
原口くんが知っていたってこと?
ああ、久瀬くんが話したってことなのね。
「ごめんなさい、聞いてはいけなかったですか?」
そっと視線を上げて尋ねる由香里ちゃんに、私は明るく笑いかけた。
「ううん、構わないよ。でもこれまでと変わりなく、時々私とこうやってデートしてくれたら嬉しいな」
「それはもちろんです!でも、あやめさん。私とではなくて、好きな人とデートは?」
「ああ、そうね。お見合いの話が進んだらいずれその人とね。でも今は仕事が大事だから当分先かな?」
すると由香里ちゃんは、そうじゃなくて!と身を乗り出してきた。
「あやめさん、お見合い結婚するって、もしかして会社の為の政略結婚ですか?」
「まあ、そうなるかな。そもそも私、恋愛とか出来ないから自然とお見合いすることになると思うしね」
「そんなことない!私、あやめさんには、ちゃんと好きな人と結ばれてほしいんです」
「ど、どうしたの?由香里ちゃん、そんな急に……」
由香里ちゃんは目を潤ませながら必死に口を開く。
「私はあやめさんのことをよく知っています。仕事熱心で誰にでも優しくて、私なんかにも気さくに話しかけてくれます。あやめさんが社長令嬢だって知った時、本当に驚きました。全然偉そうな素振りもないし謙虚だし、ひけらかすようなところもないから、私、全く気づかなくて。そんなあやめさんをますます尊敬しました。私はあやめさんに、誰よりも幸せになってほしいです。政略結婚なんて、ダメです!」
「由香里ちゃん……、ありがとう。でもね、こうすることが私の生き方なの。会社の役に立つなら喜んで……」
「役になんか立ちません!」
由香里ちゃんの強い口調に、私は驚いて言葉を止める。
いつもの由香里ちゃんからは想像出来なかった。
「あやめさんが会社の為を思って結婚しても、私はちっとも嬉しくありません!原口さんだって、久瀬くんだって、きっと社長だってそうです」
「まさか、そんな……」
「絶対にそうです!私達みんな、あやめさんが大好きなんです。あやめさんが幸せになってくれなきゃ嫌です!大体あやめさん、会社の為にって言いますけど、私達はあやめさんが政略結婚しなくてもちゃんと私達の力で会社を大きくしてみせますからね!見くびってもらっちゃ困ります!」
私はハッと息を呑む。
確かにそうだ。
私が政略結婚して他の企業の力を借りなければいけないほど、ふたば製薬の社員はヤワなの?
いいえ、違う。
みんなが一人一人責任感を持って仕事している。
まだ26歳の由香里ちゃんも、久瀬くんも。
これからだって、どんどん成長を遂げるはず。
そう信じられる仲間ばかりだ。
私が政略結婚で助けようなんて、単なる思い上がりにすぎなかった。
「そうよね。考えてみれば失礼な話よね」
ポツリと呟くと、由香里ちゃんは大きく頷く。
「まったくですよ。失礼しちゃう!私、こう見えてやれば出来る子なんですよ?」
「ふふっ、うん。よく知ってる」
「でしょ!?だからあやめさん、会社の為に政略結婚なんて、もう二度と考えないでくださいね」
「え、でも。恋愛は出来そうにないから、やっぱりお見合いになるかな?それか生涯独身」
すると、はあー?!と由香里ちゃんは呆れた声を出す。
「もう、あやめさん仕事はバリバリなのに、女子力はダメダメ!いいですか?ちゃんと恋してください!これは私からの課題ですよ。期限は、うーんと、夏が終わるまでに」
「ええー!?そんなの無理!」
「あら?やる前に音を上げるなんて、私の知るあやめさんならしませんよね?」
「うぐっ、だって恋愛なんてマニュアルもないし、やり方が分からないんだもん」
やれやれと由香里ちゃんは両手を広げる。
「よし!それならあやめさん。ランチ食べたら別のお店も行きますよ。オフィススタイルの服もトータルコーディネートしちゃいます!いいですね?」
由香里ちゃんの勢いに負けて、私ははいと頷いた。



