あやめお嬢様はガンコ者

「副社長は、日々どのような業務に携わっていらっしゃるのですか?」

食事をお預けされてご機嫌ななめになった副社長はずっと黙ったままで、仕方なく私から口を開いた。

「えー、業務は特にしてないけど」
「はい?」

頭の中にハテナマークが飛び交うが、なんとか気持ちを切り替える。

「そう言えば御社の新しいテレビCM、とても印象的ですね」
「あー、あれ?いいでしょ!」

急に身を乗り出して大きな声を出す副社長に、思わず後ずさる。

「あれねー、俺がキャスティングしたんだよ。アイドルの牧田(まきた)ねねちゃん!可愛いよねー。周りは反対したけど、俺がどうしてもねねちゃんに会いたくて大金積んだんだ。撮影現場にも立ち会ったけど、めっちゃラブリーだったよ、ねねちゃん」
「さ、左様でございますか」
「俺が社長になったら結婚してくれるかなー、ねねちゃん」
「どうでしょうかねえ?」
「俺がねねちゃんと結婚したら、うちの会社の専属モデルになるじゃん?会社にとってもすげえ利益になるわけじゃん?副社長として、そこはがんばらなきゃって思うわけじゃん?」

もう『じゃん』しか頭に入って来ない。

「それが俺の仕事の流儀ってワケ」

もはや何も言えず、何も考えられない。

「あの、お腹が空きましたよね?わたくしお料理を取ってまいります」
「おおー、気が利くじゃん!」

私は『じゃん』でお腹がいっぱいだが、笑顔を貼りつけて「少々お待ちください」と会場に戻った。
ビュッフェカウンターに行き、これでもかとステーキをてんこ盛りにしていると、久瀬くんが近づいて来た。

「あやめさん、そんなにステーキ食べるんですか?」
「ううん、これはジャン坊やの分なの」
「ジャン坊や?って、さっきテラスで一緒に話してたクリオの副社長のことですか?」
「そう。久瀬くん、見てたの?」
「ええ。割って入りたくなるのを必死で我慢してました」

え?と私は顔を上げる。

「あやめさん、そのお皿預かります」

そう言うと久瀬くんは私の手からお皿を取り、スタスタとテラスに向かった。
呆然としながら目で追っていると、久瀬くんはズイッと副社長にお皿を差し出す。
副社長はてんこ盛りステーキを嬉しそうに受け取った。