ーーーSide.久瀬－－－

翌朝。
俺が目覚めた時には、あやめさんはベッドにいなかった。
リビングに行くと、コーヒーの良い香りが漂ってくる。

「おはようございます、久瀬くん。よく眠れましたか？」
「おはようございます。はい、ぐっすり」
「良かったです。今、朝食を用意しますね。着替えて来てください」
「分かりました」

歯磨きを済ませてから寝室でスーツに着替える。
今日はあやめさんのご実家で社長と会うことになっているが、やはりこのスーツではいけないだろう。
一度自分のマンションに戻って着替えなければ。
そう思いながらリビングに戻った。
テーブルには、ホテルの朝食のように見た目も美しいオムレツやベーコン、サラダにスープ、クロワッサンが並んでいる。

「では食べましょうか」
「はい。いただきます」

朝からこんな豪華な食事なんて、なんとも優雅な気分になる。
あやめさんにとってはいつものことなのだろうか？
やっぱりあやめさんは自分とは別世界のお嬢様だと、改めて思い知らされた。

「久瀬くん。父には午前中に実家に行くと伝えてあります」
「かしこまりました。あやめさん、俺は一度自宅マンションに帰って着替えたいと思います」
「そうなのですか？そのスーツでも充分なのに」
「いえ、そういう訳にはいきません。申し訳ないのですが、あやめさんも俺のマンションに寄ってもらえますか？あやめさんを一人にはさせられませんから」
「はい、承知しました」

美味しい朝食を味わい、食器を洗い終えると、俺はあやめさんとタクシーで自宅に戻った。