ーーーSide.久瀬---
「すごいですね!高級レストランみたい」
四人がけのダイニングテーブルに並べられた料理を、俺はまじまじと見つめる。
綺麗な柄の食器に美しく盛り付けられ、どれもこれもお店で出てくるようなクオリティーだ。
「これはなんて名前の料理なんですか?」
尋ねると、あやめさんは一つ一つ丁寧に説明してくれる。
「これはポテトガレットとキャロットラペ、これはクリームソースのラビオリ。中には、ほうれん草とナスとサンドライドトマトをみじん切りにして詰めてあります。こっちは、トマトとモッツアレラチーズのカプレーゼ。それからサーモンの香草焼きです」
「へえ、美味しそう。このハーブは何ですか?」
添えてある色んな種類のハーブを見ながら聞いてみる。
「えっと、これがバジル。それからローズマリーとローレル。あとはミントも。全部そこで育ててます」
そう言ってあやめさんは、窓際のプランターを指差した。
「えっ、お嬢様がまさかの自給自足!?」
「そんな大げさな。あ、でもミニトマトとラディッシュも育ててますよ。あと、きゅうりとオクラも」
「へえー!なかなかですね、あやめさん」
感心すると、あやめさんは丁寧にありがとうございますと頭を下げる。
「早速いただいてもいいですか?」
「はい、もちろんです。ガーリックトーストとオリーブオイルも持ってきますね」
小皿に入れたオリーブオイルと、トースターで焼いたフランスパンもテーブルに運んできてくれる。
「なんて豪華な食事。では、いただきます」
「はい、召し上がれ」
食べ始めるとどれもレストランでしか味わえないような美味しさで、次から次へと手を伸ばしてしまう。
「あの、久瀬くん。よく噛んで食べてくださいね」
「ん?ああ、すみません。美味しくてつい」
「いえ、お口に合えば良かったです」
そう言ってあやめさんは、にっこりと笑う。
「本当にお店の味ですよ。お嬢様学校の授業で習うんですか?」
「えっと、普通の女子校ですよ?調理実習はありましたが、簡単な和食ばかりでした。これは単に私が好きな味付けにしただけなんです」
「へえ、すごいな。なんかちょっとワインの風味がしません?」
「はい、赤ワインを入れています」
舌が肥えているからだろうか、あやめさんの味付けは奥深く、それでいて油っこくない。
あやめさんの手料理を食べられるなんて、ものすごく幸せなことでは?と思わずにはいられなかった。
「ご馳走様でした。もう大満足です」
「ふふ、良かったです。今、コーヒーを淹れますね」
「俺にも手伝わせてください」
俺が食器をシンクに運ぶと、あやめさんはお湯を沸かし始めた。
「あやめさん、洗い物してもいいですか?スポンジはこれ?」
「え?いえ、そんな。そのまま置いておいてください」
「これくらい、させてください」
俺が食器を洗う横で、あやめさんはゆっくりとドリップコーヒーを淹れる。
「キッチンにこうやって並ぶのって、なんだかいいですね」
何気なくそう言うと、あやめさんは戸惑ったようにうつむいた。
「そ、そうですか?」
「はい。なんか、同棲カップルとか新婚さんみたいで。あやめさんは、やっぱり家事は何でもこなせる旦那さんがいいですか?」
「いいえ。私は古い考え方なので、私が全ての家事をこなして夫を支えるべきだと考えています」
思わず俺は驚いて手を止める。
「それってあやめさんは、結婚したら仕事を辞めて家庭に入るってことですか?」
「仕事はずっと続けます。もし結婚相手に退職を迫られたら、結婚の方を諦めますね」
ええ!?と俺は更に驚いて目を見開いた。
「正社員をしながら家事全般をこなして夫を支えるなんて。それじゃあ、あやめさんの身がもちませんよ」
「そうでしょうか?でもきっとお相手の男性は、家事なんて出来ないと思うんですよね。そういう環境で育っていないでしょうから」
「えっ!もうお相手がいらっしゃるのですか?」
「いえ、いません。ですが、いずれは父が勧めるお見合い相手と結婚するつもりです。今はまだ仕事に集中したいのでお見合いは断っていますが、5年後くらいには真剣に考えるつもりです。ふたば製薬にとっても協力関係を築ける企業の方と、ご縁があるといいなと思っています」
「え、ちょっと待ってください」
俺は洗い物を完全に中断して、あやめさんに向き直った。
「あやめさん、恋愛結婚しないつもりですか?」
「ええ、そうですけど。何か?」
「何かって!だってそれって、恋愛をしないってことでしょう?」
「そうなりますね」
「いやいや、ダメでしょ?そんなの」
「どうして?あ、久瀬くん。コーヒーを運びますから、ソファへどうぞ」
はあ、と気の抜けた返事をする俺を促して、あやめさんは二人分のコーヒーをローテーブルに並べる。
なんとか腰を落ち着けると、あやめさんはコーヒーをひと口飲んでから切り出した。
「すごいですね!高級レストランみたい」
四人がけのダイニングテーブルに並べられた料理を、俺はまじまじと見つめる。
綺麗な柄の食器に美しく盛り付けられ、どれもこれもお店で出てくるようなクオリティーだ。
「これはなんて名前の料理なんですか?」
尋ねると、あやめさんは一つ一つ丁寧に説明してくれる。
「これはポテトガレットとキャロットラペ、これはクリームソースのラビオリ。中には、ほうれん草とナスとサンドライドトマトをみじん切りにして詰めてあります。こっちは、トマトとモッツアレラチーズのカプレーゼ。それからサーモンの香草焼きです」
「へえ、美味しそう。このハーブは何ですか?」
添えてある色んな種類のハーブを見ながら聞いてみる。
「えっと、これがバジル。それからローズマリーとローレル。あとはミントも。全部そこで育ててます」
そう言ってあやめさんは、窓際のプランターを指差した。
「えっ、お嬢様がまさかの自給自足!?」
「そんな大げさな。あ、でもミニトマトとラディッシュも育ててますよ。あと、きゅうりとオクラも」
「へえー!なかなかですね、あやめさん」
感心すると、あやめさんは丁寧にありがとうございますと頭を下げる。
「早速いただいてもいいですか?」
「はい、もちろんです。ガーリックトーストとオリーブオイルも持ってきますね」
小皿に入れたオリーブオイルと、トースターで焼いたフランスパンもテーブルに運んできてくれる。
「なんて豪華な食事。では、いただきます」
「はい、召し上がれ」
食べ始めるとどれもレストランでしか味わえないような美味しさで、次から次へと手を伸ばしてしまう。
「あの、久瀬くん。よく噛んで食べてくださいね」
「ん?ああ、すみません。美味しくてつい」
「いえ、お口に合えば良かったです」
そう言ってあやめさんは、にっこりと笑う。
「本当にお店の味ですよ。お嬢様学校の授業で習うんですか?」
「えっと、普通の女子校ですよ?調理実習はありましたが、簡単な和食ばかりでした。これは単に私が好きな味付けにしただけなんです」
「へえ、すごいな。なんかちょっとワインの風味がしません?」
「はい、赤ワインを入れています」
舌が肥えているからだろうか、あやめさんの味付けは奥深く、それでいて油っこくない。
あやめさんの手料理を食べられるなんて、ものすごく幸せなことでは?と思わずにはいられなかった。
「ご馳走様でした。もう大満足です」
「ふふ、良かったです。今、コーヒーを淹れますね」
「俺にも手伝わせてください」
俺が食器をシンクに運ぶと、あやめさんはお湯を沸かし始めた。
「あやめさん、洗い物してもいいですか?スポンジはこれ?」
「え?いえ、そんな。そのまま置いておいてください」
「これくらい、させてください」
俺が食器を洗う横で、あやめさんはゆっくりとドリップコーヒーを淹れる。
「キッチンにこうやって並ぶのって、なんだかいいですね」
何気なくそう言うと、あやめさんは戸惑ったようにうつむいた。
「そ、そうですか?」
「はい。なんか、同棲カップルとか新婚さんみたいで。あやめさんは、やっぱり家事は何でもこなせる旦那さんがいいですか?」
「いいえ。私は古い考え方なので、私が全ての家事をこなして夫を支えるべきだと考えています」
思わず俺は驚いて手を止める。
「それってあやめさんは、結婚したら仕事を辞めて家庭に入るってことですか?」
「仕事はずっと続けます。もし結婚相手に退職を迫られたら、結婚の方を諦めますね」
ええ!?と俺は更に驚いて目を見開いた。
「正社員をしながら家事全般をこなして夫を支えるなんて。それじゃあ、あやめさんの身がもちませんよ」
「そうでしょうか?でもきっとお相手の男性は、家事なんて出来ないと思うんですよね。そういう環境で育っていないでしょうから」
「えっ!もうお相手がいらっしゃるのですか?」
「いえ、いません。ですが、いずれは父が勧めるお見合い相手と結婚するつもりです。今はまだ仕事に集中したいのでお見合いは断っていますが、5年後くらいには真剣に考えるつもりです。ふたば製薬にとっても協力関係を築ける企業の方と、ご縁があるといいなと思っています」
「え、ちょっと待ってください」
俺は洗い物を完全に中断して、あやめさんに向き直った。
「あやめさん、恋愛結婚しないつもりですか?」
「ええ、そうですけど。何か?」
「何かって!だってそれって、恋愛をしないってことでしょう?」
「そうなりますね」
「いやいや、ダメでしょ?そんなの」
「どうして?あ、久瀬くん。コーヒーを運びますから、ソファへどうぞ」
はあ、と気の抜けた返事をする俺を促して、あやめさんは二人分のコーヒーをローテーブルに並べる。
なんとか腰を落ち着けると、あやめさんはコーヒーをひと口飲んでから切り出した。