「あの、久瀬くん」
「何ですか?」
「本当にこんなこと、これ切りにしてくださいね。久瀬くんの負担になってしまいますから」
「それならあやめさんがご実家に戻ってくれますか?」
「いいえ、それは出来ません」
「なら、俺もやめません」
あやめさんは視線を落とし、悔しそうにむーっと頬を膨らませる。
申し訳ないと思いつつ、思わず俺は頬を緩めてしまった。
(なんか、ほんとに可愛いなあ)
俺はますますあやめさんの素顔を見たくなった。
会社では誰にでも笑顔で接し、上品で穏やかで、東と話している時はちょっと天然なあやめさん。
仕事に関しては誰よりも熱心できちんと丁寧にこなしている、いい意味で本当に社長令嬢らしからぬ人だ。
もしかするとそれは、あやめさんのこういう芯が通った部分があるからこそなのかもしれない。
確固たる信念を持ち、誰に何を言われても考えを曲げないあやめさんの一面を知った今はそう思う。
恐らく社長も、あやめさんのひとり暮らしには反対されただろう。
だがあやめさんは決して譲らなかったのだ。
(なかなかの強敵だな。負けんなよ?俺)
己に言い聞かせて覚悟を決める。
毎朝あやめさんのマンションに迎えに行くには、いつもより40分早く自宅を出なければならない。
負担ではないと言えば嘘になるが、あやめさんを守る為ならこれくらいはどうってことない。
願わくば、あやめさんが早く実家に戻ってくれたらと思うが、さてどうなるか?
二人で電車に揺られ、会社のエントランスに着くと、あやめさんは恥ずかしそうに俺に頭を下げた。
「久瀬くん、ありがとうございました。それではここで失礼します」
どうやら他の社員に見られないよう、そそくさと立ち去りたいらしい。
まあ、ここまで来ればもう大丈夫だと、俺は立ち止まってあやめさんを見送ることにした。
「ではあやめさん。お帰りは19時にまたここでお待ちしています」
あやめさんは驚いたようにパッと顔を上げる。
「いえ、そんな。一人で帰れますので……」
その時後ろから「あ、あやめさん!おはようございます!」と声がした。
振り返ると、東が嬉しそうに駆け寄って来る。
「一緒に行きましょ!あれ?久瀬くんもいたの?」
「あ、たまたまそこで会ったの。じゃあ行きましょ、由香里ちゃん。それでは久瀬くん、また」
あやめさんは東を促して踵を返す。
「はい。それでは、また」
思わせぶりに「また」を強調すると、あやめさんは肩をピクリとさせてから、東と二人でエレベーターホールへと去って行った。
「何ですか?」
「本当にこんなこと、これ切りにしてくださいね。久瀬くんの負担になってしまいますから」
「それならあやめさんがご実家に戻ってくれますか?」
「いいえ、それは出来ません」
「なら、俺もやめません」
あやめさんは視線を落とし、悔しそうにむーっと頬を膨らませる。
申し訳ないと思いつつ、思わず俺は頬を緩めてしまった。
(なんか、ほんとに可愛いなあ)
俺はますますあやめさんの素顔を見たくなった。
会社では誰にでも笑顔で接し、上品で穏やかで、東と話している時はちょっと天然なあやめさん。
仕事に関しては誰よりも熱心できちんと丁寧にこなしている、いい意味で本当に社長令嬢らしからぬ人だ。
もしかするとそれは、あやめさんのこういう芯が通った部分があるからこそなのかもしれない。
確固たる信念を持ち、誰に何を言われても考えを曲げないあやめさんの一面を知った今はそう思う。
恐らく社長も、あやめさんのひとり暮らしには反対されただろう。
だがあやめさんは決して譲らなかったのだ。
(なかなかの強敵だな。負けんなよ?俺)
己に言い聞かせて覚悟を決める。
毎朝あやめさんのマンションに迎えに行くには、いつもより40分早く自宅を出なければならない。
負担ではないと言えば嘘になるが、あやめさんを守る為ならこれくらいはどうってことない。
願わくば、あやめさんが早く実家に戻ってくれたらと思うが、さてどうなるか?
二人で電車に揺られ、会社のエントランスに着くと、あやめさんは恥ずかしそうに俺に頭を下げた。
「久瀬くん、ありがとうございました。それではここで失礼します」
どうやら他の社員に見られないよう、そそくさと立ち去りたいらしい。
まあ、ここまで来ればもう大丈夫だと、俺は立ち止まってあやめさんを見送ることにした。
「ではあやめさん。お帰りは19時にまたここでお待ちしています」
あやめさんは驚いたようにパッと顔を上げる。
「いえ、そんな。一人で帰れますので……」
その時後ろから「あ、あやめさん!おはようございます!」と声がした。
振り返ると、東が嬉しそうに駆け寄って来る。
「一緒に行きましょ!あれ?久瀬くんもいたの?」
「あ、たまたまそこで会ったの。じゃあ行きましょ、由香里ちゃん。それでは久瀬くん、また」
あやめさんは東を促して踵を返す。
「はい。それでは、また」
思わせぶりに「また」を強調すると、あやめさんは肩をピクリとさせてから、東と二人でエレベーターホールへと去って行った。



