キミのために一生分の恋を歌う② －last stage－

ある春の日。
桜の満開の日。
パパー！！ と家中に響く大きな声。
どたどたと元気に駆け回る足音。

「星夏(せな)！ ほら、走らない。おいで、抱っこしてあげるよ」
「うん！！ パパ、大好きっ」

あのラストライブから6年の月日が過ぎた。
私はゆっくりと家の階段を下りる。
胸に眠ってる子を抱きながら。

「あぁごめんね小夏、起こしちゃったか。凪(なぎ)はまだ寝てる？」
「うん、まだぐっすり」
「よかった。小夏も無理するなよ」
「今日は私たちのライブだもんね」
「それにしても雨、なかなか止まないな」
「大丈夫。きっと雨上がりの空に虹がかかるよ」
「『if』の歌詞じゃん。懐かしいなぁ……ってそうだ。母さんと東条先生たちがもうすぐこっち着くって」
「小春とすみちゃんと冬夜たちも来るって」
「そう。きっと子供たちが元気すぎてびっくりするだろうな」
「ふふ、いいことだよね」
「そうだな！」

今日は私たちbihukaの6年振りのライブ。
色んなことがあったけど、私は私の道を信じて進んでやっとここまでたどり着いた。

「晴。これからが本当のスタートだよ。私たちの夢は、旅は、まだまだ続いていくから」

晴はいつもの変わらない笑顔で言った。

「これからも全力だ！！」
「うん！！」

私には夢がある。
いつか、たくさんの人の心に残るような歌手になること。
私の歌を聴いてくれた人のこれからを、私の歌で明るく照らしていきたい。

晴と、愛しい家族と共に。
ふいに私の伸びた髪が手にかかった。
それはもう、白くはなくて、元通りの茶色に戻っていて。
私の歩んできた道がどれだけ幸せだったかを表しているようだった。
私は迷いを振り切るように髪をかきあげた。


ーーそして、ライブが始まる。
いつものように目を瞑って手を胸の前に合わせ、神様へと祈った。
今日もありがとうーーと。

この舞台に立てる幸せを。
ずっと目指してきた、私のゴール。
ここからがまた新しいスタート。

ライブを心待ちにするファンたちの上に桜の花びらが降る。
本当に雨上がりの空には虹がかかり、雲の隙間からは暖かな光が柔らかく降り注いでいた。



【bihuka's special live@武道館】
-Heaven helps those who help themselves-


「みんな、ただいま！！ 私たちはbihukaです！ 今日はライブへ来てくれてありがとう。全力で楽しもうね！！！ それでは早速1曲目いくよ、タイトルは《おかえり》ーー」





『キミのために一生分の恋を歌う② －last stage －』【完】